こんにちはー、皆さん。
相変わらず無気力に生きてる遊城十代でーす。
今オレがどこにいるか分かる?
あ、分かんない?
バカだなぁ。
学校に決まってんだろー、学生なんだから。
・・・・・・・・・。
ごめんなさい、すいません、調子に乗りました。
今日、学校にヨハンがいないからちょっと気分が浮き立っちゃってさ。
え?何でいないのかって?
あー・・・、それは・・・えっと・・・。
言い難いっつーか、言いたくない・・・。
あっ、その、別にエロい事をして疲れたから休んでるって訳じゃないぞ!
それ以外の理由だから!マジだって!
とにかくヨハンいなくて最高!!ウッキウキだぜ!
・・・今、恋人が傍にいない事にウキウキしてるなんておかしいんじゃない?と思ったアンタ。
前回の話を読め。
ヨハンがいるとクラスメイトたちのオレに対する不快指数がグングン上がってとても居辛いんです。
あれはオレの嫌な事の一端でしかない。
もっともっといろんなイジメされてるんだからな。
クラスの奴らだけじゃない。学校にいるほとんどの奴からだ。
辛いから。マジでもう・・・ホント辛いから。
そんなオレを満足そうに見てるあの傲慢と恋人同士でいるには並大抵の精神力じゃ耐えられないんだぞ。
よくオレ、アイツと付き合ってられるよな!と自分で自分を毎日褒めてます。
まあ・・・耐えれている最大の理由は愛してるからだけど。
・・・・・・うわぁっ!今のなし・・・!!
恥ずかしい事言ってしまったぁっ!
ヨ、ヨハンには内緒な。
とにかく話は戻して・・・。
家でも学校でもオレはずっとヨハンに束縛されているんだ。訪れたこの開放感を味わって何が悪い!
でも夜にはオレの家に来ちゃうからすぐ開放感は終わるけどな!ハハ・・・。
しかもヨハンがいないからといってイジメがない訳じゃない。
精神的なのが減って、物理的なイジメが増えるんだ。
授業中に教師から毎回当てられる。消しゴムやらなんやら投げられる。
廊下を歩いていると水を掛けられそうになる。
階段から突き落とされそうになる。
持ち物を盗まれたり壊されたり・・・etc.
もうここまでくると感心するね。皆の心を掴んで離さないヨハンのカリスマっぷりに。
本当は良い奴ら(たぶん)がこんな酷い事をするのはヨハンが猫被って仕組んでいるからだし。
ここまで人心掌握する程のヨハンの猫被り・・・、恐ろしい。
アイツ絶対間違った方向に才能使ってるよな。
もっと良い方向に使って・・・いや、無理だな。考えただけでも無駄だった。
って、ああもう・・・またヨハンの事考えてたし・・・。
よし、思考を切り替えよう。
今考えないといけない事は、今日、オレの下駄箱に入っていた手紙の事だ。
ラブレターとかそういう甘いモノじゃない事ぐらい、もう皆には分かるだろう。
そう、これはオレへ忠告する手紙。
校舎や体育館の裏へオレを呼び出し、ヨハンの傍から離れろという脅しの手紙だ。
自慢じゃないが、オレの下駄箱や机の中にこういう類のはいっつも入っている。
まあ、たいてい無視してるけど。
だって行くの面倒くさいし、行ったってネチネチと言われるし。
だけど今回、オレはこの呼び出しに応じようと思っている。
何でかって?
うーん、何か今回の手紙・・・、いつもと何か違うんだ。
どこが違うかって言うと・・・文体?筆跡?うーん?
ごめん。分かんねぇ。
でもオレの勘が囁いてるんだ。これはいつもと違うって。
オレの勘は結構当たるんだぜ。ヨハンのお墨付きも貰ってるから自信ある。
だから今オレが向かっている所は校舎の裏。
あそこにはゴミ焼却場があるんだぜ。
オレの机の中に入れられるゴミを燃やしによく行くから道は覚えてる。
ちょっとオレ、方向音痴の気があるからさ、道覚えてるかどうかは結構重要なんだ。
ヨハンの奴程、深刻な方向音痴じゃないんだけどね。
あ、そうそう、ヨハンには致命的な弱点があってそれが道に迷う事なんだ。
本当・・・面白いぐらいにアイツ迷うんだよ。
この間なんて・・・いや、この先はヨハンの名誉の為に言わないでおこう。
だって聞いたら絶対皆笑う。オレも思わず笑ったからな。
そういうヨハンの抜けてるトコ可愛いなーって思うんだよな、オレ。惚れてるからかな?
あ、余計な事考えてたせいで校舎裏に出る扉を通り過ぎるところだった。危ない危ない。
錆びたドアノブを回して扉を開けると夕陽の光が直に目に入って痛かった。
分厚い眼鏡を掛けていてもそういうのは防げない。
眼鏡を外して生理的に浮かんだ涙を拭おうと思ったが、オレの前辺りに人がいる気配がしたので止めた。
ヨハンに止められてるんだよ。ヨハン以外の前で素顔を見せるなって。
そんな隠す程の顔はしてないんだけど、目の色が珍しい二色だからかもなぁ。
興味持たれたらヨハン的にマズイからだろうとオレは思っている。
だってそれ以外に理由なんてないだろ?
「・・・おい、聞いているのか」
「へ?」
「チッ!俺の話を何故聞いておらん!馬鹿なのか!」
「えぇー・・・」
いきなりバカ呼ばわりって・・・。
いや、それより・・・
「男ぉ?」
「俺が女に見えると言うのか、貴様・・・!」
「あー、そういう意味で呟いたんじゃなくて・・・」
「だったら何だ?」
「オレを呼び出すのは女ばっかりだからさ、いつもと違うのにビックリして思わず」
「なるほど」
頷くその男が最初、誰だか分からなかった。
でも光に慣れた目でよく見てみると知った人物である事にオレは気付く。
「あれっ?委員長じゃん」
「役職名で呼ぶな!俺には万丈目準という名前がある!」
「はいはい・・・。で、万丈目」
「万丈目さんと言え!」
「・・・・・・」
オレを呼び出した男はオレのクラスの委員長だった。
だからと言って話をした事もないから、今が初めての接触と言えるだろう。
なんていうか・・・面倒そうな男っぽいな・・・。
嫌だなぁ。関わりたくない。
どうせヨハンと離れろって言われるんだろう。
男にもヨハンの奴人気だし、あり得ない事じゃない。
「ふん。まぁ、いいだろう。今は時間がないから俺をそう呼ぶ事を許してやる。本題に入ろう、遊城十代。俺はお前に言いたい事があって呼び出した」
「あっそ」
「あの男・・・ヨハン・アンデルセンを排除する為に手を組まないか」
「へぇー・・・・・・・・・え?」
今、何て?
もう一度お願いします!
「お前があの男の幼馴染だと分かっている。だがお前はあの男のせいで酷いイジメに遭っているだろう。元凶のアイツがいなければクラスに馴染めたと一度ぐらいは思った筈だ」
アハハハハ・・・何度も思った事あります。
「俺はアイツが憎い!邪魔なんだ!!アイツがいなければ俺があのポジションの筈だったんだ!」
激情を表す万丈目にオレは驚いてしまう。
まさか・・・
「万丈目って・・・ヨハンが嫌い?」
「大っっっ嫌いだ!!」
「うっそー・・・」
まさかまさかとは思ったけど、この世にあの猫被っている状態のヨハンを嫌う奴がいるなんて!
新鮮な驚きにオレは万丈目の手を掴み、見上げる。
「なぁなぁ!アイツのどこが嫌いなんだ?教えてくれよ万丈目!」
「は?」
「だってさ、だってさ、ヨハンって人当たりの良い性格の好青年だろ?嫌いになる要素皆無じゃん!」
「だから俺が本来得る筈だったポジションを奪われたからと言って・・・」
「いやいや他にもあるんだろ?嫌いになる要素が!」
顔を寄せて詰め寄ると万丈目は鬱陶しそうに顔を背けた。
地味に傷付くぞー、万丈目ー。
って、あれ?何か顔赤い?夕日のせいか?
「そ、そうだな・・・。あの胡散臭い性格がまず気に入らん。あれは腹の中で悪巧みしているに違いない」
「へぇー!」
「だいたい世の中にあんな性格の持ち主なんている訳がないんだ!いるとしても朴訥な田舎者に決まってる!」
「だよなー!何で皆分かんないんだろうな!」
「そうだ!この学校の馬鹿共はあの性悪に騙されてるんだ!俺が目を覚ましてやらんといかん!」
だんだんヒートアップしていく会話。
オレたちはお互いが持つヨハンに対する嫌な事をぶちまけていく。
こうなると意気投合するのは早い。
ああ、何でオレはもっと早くに万丈目に出会わなかったんだろう?
こんなにもヨハンへの不満を分かってくれる奴がいるなんて!
両親にも伝わらないこの不満が、聞いてくれる万丈目のおかげで解消されていく。
やっぱりオレの勘は当たってた。
今日この場所に来て良かった!
「万丈目・・・!お前すげーよ!ヨハンの猫被りを見抜いた奴はお前が初めてだ!」
「ふん!そうだろう!俺様はすごいんだ!」
万丈目は自慢げに踏ん反り返る。
だが、ふと思い出したかのように真面目な顔になってオレを見つめた。
何だろう?
「それで、どうなんだ?俺と手を組むのか組まないのか?」
ああ、その事か・・・。
まあ、考えなくても最初から答えは決まってる。
「ごめん。悪いけど、組めない」
「何故だ!?俺たちは同じようにヨハンを邪魔に思ってるじゃないか!理由を言え!理由を!」
「ヨハンと付き合ってるから」
その瞬間、万丈目の口と目が大きく開いた。
イケメンは面白い表情しててもイケメンだな。
「信じられないって顔してるなー、万丈目。嘘じゃないぜ?ちゃんとお互い愛し合ってる」
「・・・今の今まで散々ヨハンの悪口言ってた奴がそんな事を言っても信じられんぞ・・・」
「彼氏に不満を持つ彼女なんてどこにだっているって(たぶん)。あー、もしかして万丈目、お前誰とも付き合った事ないんじゃ」
「!!」
「やっぱりな。そういえばそういう奴の事何て言うんだっけ?ヨハンが何か言ってたな・・・。あ、そうだ!童貞だ!」
「ど、どどどどっっ童貞とか言うなあああぁあああぁぁぁっ!!!」
オレの一言で万丈目は顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
言っちゃいけない事だったのか?
ヨハン以外の年頃の男と話した事ないから分かんねぇや。
「えっと、万丈目、その・・・ごめん」
「謝るなあああああ!!俺のプライドがズタズタだっ!!」
謝ってもダメでした。
えぇ〜、もうどうすればいいんだよ。
男ってよく分からん。
万丈目の落ち込む姿にオレはらしくもなくうろたえてオロオロしてしまう。
「もうお終いだ・・・。同士だと思った奴が実は憎いアイツの彼女とか・・・」
「ま、万丈目?」
「どうせバラすんだろう、十代・・・。そして俺は全校生徒、教職員共に嫌われて転校するしかないんだ・・・」
「万丈目・・・?オレ、バラさねぇぞ?」
「は?」
俯いていた万丈目が勢いよくこっちに顔を向けた。
「俺はお前の彼氏を嵌めようとしたんだぞ?なのに何故・・・」
「んー、言ってなかったけどさ、ヨハンってすっげー嫉妬深いんだよ」
「?それが何だ?」
「だからー、オレが万丈目と放課後残ってずぅっとお話してましたーって言ったら超危険なんだよねー。むしろ万丈目こそオレと会話した事ヨハンにバラさないで欲しいんだけど」
知られたら最悪監禁だぜとため息を吐くようにそう零すと万丈目は眉間に皺を寄せた。
あ、今最悪とか言ったけど、ヨハンにこの事知られたらそれ以上の事態が待ってるから。
さすがにここまでは万丈目に言えない。
「つまり・・・俺はお前に弱みを握られたのと同時にお前の弱みも握ったという事か」
「難しく言うとそういう事だな」
「そうか・・・」
「なぁ、万丈目・・・。今更こんな事言うのなんだけどさ」
「何だ?」
「お前と話すの・・・すっげー楽しかった。ありがとう」
「!」
もう日は落ちて辺りは暗くなっていた。
まだヨハンは帰って来てないかも知れない。けど、オレの家でもう待ってるかも知れない。
帰りたくないなぁ・・・。
こんなに楽しかったの、素のオレでヨハンとデートした以来だ。
あの時はすっげー人にジロジロ見られたな。
あれ以来素の姿で外に出してくれない。
ホント横暴だぜ、アイツ。理由ぐらい話せってんだ。
「お、おい。十代!」
「ん?」
なんか・・・万丈目が顔を赤くしてモジモジしていた。
どうしたんだ?
「お、お、俺も・・・」
「うん」
「っまあまあ楽しめたわ・・・!!ま、また会話してやらんでもない・・・」
「そっか!ありがとう、万丈目!」
照れくさそうにそう言う万丈目。
友だちってこんな感じなのかもな・・・。
それからオレと万丈目は別れて家路に着いた。
なんか学校が楽しみになったかも。
と言ってもヨハンがいるトコで会話は出来ない。
またヨハンが仕事でどっかに行ってくれるといいなぁ。
あ、こんな事言ってるけど実際ヨハンとあんまり会えなかったらオレ、悲しくって臥せっちゃうから。
ちゃんと愛してるんです。
だから本当はこの喜びを共有して欲しいんだけどね。
まあ、無理な願いだな。早々に諦めよう。
ヨハンと付き合うには諦めが肝心なんです。
これ、大事だぜ?