遊星君は十代くんが働くと言った次の日から知り合いのバイト先に十代くんを連れて行った。
ボクは仕事があって次の日から海外に行かなくちゃいけなくなったから気になるんだけど遊星君に任せておいた。
まぁ、一週間以内に終わるし大丈夫だろうと思ってたんだけど・・・・・・全然大丈夫じゃなかった。

「・・・じゅ、十代くん・・・?えっと・・・ただいま」
「・・・・・・・・・・・・遊戯さん・・・」

昼頃に家に帰るとそこにはいつもの笑顔がない十代くんが居た。
皆を明るくさせる、まるで太陽のような暖かい笑顔が一切なくなっている。
沈んだ表情の十代くんを見て、ああ・・・バイト、上手くいかなかったんだなと思った。
だからと言って沈み過ぎな気もする。
いつもだったらボクが家に帰って来た時は満面の笑みでお帰りなさいって言ってくれるのに、今回はボクの名前を呟くだけ。
もっと何か他に気落ちする要因があるのかな・・・。
こんな十代くんには慣れてないから、すごく戸惑ってしまう。
十代くんは笑顔が標準装備じゃないとダメだよ、家の雰囲気が一気に暗くなっちゃう。
なんとかしないと・・・と決意したボクはリビングのソファに座る十代くんの隣に座り、話し掛けた。

「どうしたの?十代くん。すごく沈んだ表情してるね・・・」
「心配掛けてすいません・・・。気にしないで下さい・・・」
「えぇっ!?気にしないでって、そんなの無理だよ〜。十代くんはボクにとって大事な存在なんだよ?そのキミがこんなに浮かない顔してるのに何も聞かないなんて出来ない」

ボクのこの言葉に十代くんは下に向けた頭を上に上げるが、すぐにまた項垂れてしまった。
これは重症だ・・・。
『オレが働くと周りの人間がどうなるか見てるといい』とか言って自信あり気だったから何かしら起こるだろうとは思っていたけど、こんな風になるなんて予想してない。
困ったな・・・話も出来ない状態の十代くんから無理やり聞き出す訳にもいかないし・・・。
仕方ない。遊星君が大学から帰ってきたら何があったのか聞いてみよう。
そう考えていた時、十代くんがポツリと呟いた。

「遊戯さん・・・。オレ、この家、出ます」
「えっ・・・!?」

予想外の言葉にボクは驚く。

「オレたち、兄弟としてやっていくには無理だったんですよ・・・。血は繋がってはいても、ずっと他人だったんだ。いきなり家族になるなんて出来っこなかったんです・・・」
「どうして・・・どうしてそんな事言うの!?ボクたち家族になれてたじゃないか!お互いが大切な存在に」
「いいえ。遊戯さんはそう思ってはいても、遊星はオレを認めていない」
「違うよ!そんな事ない!あの子は無口でクールだからそう見えるだけで・・・!」

遊星君は十代くんが来てから表情や行動に感情が見えるようになった。
あの子が人に感情を荒げる事なんて本当にないんだ。
十代くんはあの子にとって特別な存在。
怒ってばっかりだけど、確実に心を開き始めている。

「その心の開きは完全に閉じてしまいましたよ、遊戯さん」

ボクの心の中の言葉を否定する十代くん。

「何で考えている事が分かるのかって思ってますね・・・。本当はその理由、分かってるんじゃないですか?遊戯さん」
「・・・・・・カードの精霊との融合・・・」

十代くんが健康な身体を手に入れられたのは死ぬ直前に精霊と融合したからとは聞いている。
どうしてそんな事が出来たのかとか、どんな精霊と融合したのかとか、詳しくは知らない。
そしてそれが十代くんの身に健康以外の何かをもたらしたなんて・・・カードの実体化ぐらいしか知らない。

「そう・・・。オレは精霊と・・・その中でも最高位の悪魔『ユベル』と融合しました。その融合でオレの身体は再構築され、ユベルと同じ半分女になり、そして実体化の力を得ました。それだけなら良かったのに・・・」

十代くんはそこで言葉を切り、顔を上げてボクと目を合わせる。
その目は右目が橙、左目が翠・・・。
十代くんを見守ってる時に何度か見た事があるけど、こんな至近距離で見たのは初めてだ。

「オレは、悪魔の力も手に入れてしまったんです。人の心の中を覗き、闇を暴き、弄ぶ力を・・・」
「悪魔の、力・・・」
「やっぱ、遊戯さんでも驚きますよね。オレのこんな信じられないような話聞いて・・・」
「お、驚いてないよ・・・!薄々・・・気付いていたし・・・」

ゴクリと喉が動く。
十代くんの真実に驚かなかったというのは嘘だ。
苦しい言い訳に心が読める十代くんはとっくに気付いているだろう。
そんなボクに十代くんは悲しい笑みを顔に浮かべる。

「実体化の力はこの目を発現している時だけ発動できます。でも、悪魔の力は何もしなくても永久的に発動し続けるんです。それは常に人の心の闇を刺激してしまうという事・・・」
「刺激してしまうとどうなるの・・・?」
「狂ったり、凶暴になったり、鬱になったり・・・死んだりします」
「そんな!!信じられない・・・っ」
「そうでしょうね。遊戯さんたちの心の闇には刺激がいきませんから、実感も湧かないでしょう」
「え・・・?何で・・・?」
「闇のデュエルを行うとか、闇のカードかアイテムに触れたりするとかして闇に関わった人には、闇への耐性が出来るんですよ」

十代くんの視線が動き、ボクの鳩尾辺りに止まる。
そこはちょうど首から掛けた千年パズルがあった所。
今はもうないアレは闇のアイテムだった。
千年パズルのおかげでボクはもう一人のボクに出会え、友達もたくさん出来て、強くなった。
ボクともう一人のボクとのかけがえのない絆の証。
闇のアイテムだけど、決して怖いモノじゃなかった。
アレには遊星君も触れている。
だから、ボクたちは狂っていないのか・・・。

「オレがこの家に住もうと思ったのは遊戯さんへの憧れとか家族としてやり直したいとかそんなのじゃありません。遊戯さんの所に居れば普通の人たちに害悪を振り撒かないように出来る・・・そう思ったからです」
「十代くん・・・」
「それに・・・もしかしたら悪魔のオレでも遊戯さんや弟は受け入れてくれるかも知れないと、そういう安直な考えもありました・・・」

スッと瞳の色を元に戻して、また十代くんは俯いた。
その哀しい横顔にボクの目から涙が零れる。
十代くんは卒業デュエルの後、一緒に住もうと誘ったボクに断りを入れ、二年ぐらい旅に出ていた。
その旅で十代くんは人に受け入れられる事がなかったんだろう・・・。
居場所がなくて傷付いた十代くんは一番頼りになると思ったボクに助けを求めたに違いない。
ボクはやっと兄弟全員で一緒に住めると、その事ばかり喜んで十代くんの真意に気付かなかった。
どうして気付いてあげられなかったんだろう。
いろんな所を巡ってたくさんの人とデュエルしたいって言っていた子が、たった二年で帰りたいなんて言う筈ないじゃないか・・・。

「遊戯さん、今までありがとうございました。もう荷物をまとめ終わってるんで、これでお別れです」

十代くんはソファーから立ち上がってボクの涙を手で拭いながらそんな事を言う。
お別れ?家を出る?そんなの許せる訳がない。

「許してもらわなくても・・・オレは勝手に家を出ます・・・」
「ダメだよ!ダメ!!この家を出てってどこに行くつもりっ?十代くんにとってここは最後の安住の地だったんじゃないの!?まさか精霊界に・・・」
「・・・・・・」
「そっ、それこそダメだよっっっ!本当に人間じゃなくなっちゃうよ、十代くん!!十代くんは人間なんだよ・・・!?悪魔の力を持ってるけど、本当の悪魔じゃないんだよ!!」

ボクの目や言葉から逃げるようにジリジリと後ずさる十代くん。
逃がさないようにボクは両手でしっかり十代くんの手を掴む。
傷付いて・・・哀しくて・・・一人は寂しいと十代くんの心が叫んでいる。
ずっと隠していたその想いが堰を切ったかのように溢れている。
心が読めなくても、それぐらい分かる。
だってボクたちは・・・兄弟なんだから。

「ねぇ十代くんっ!ボクの心を読んで!ボクは十代くんが悪魔でも怪物でも構わない!そりゃ、少しは怖いけど、ボクは受け入れるよ・・・!だってボクはキミが好きなんだから!キミは・・・十代くんは・・・ボクにとって大切な家族なんだから・・・!!」

ボクは心の底からそう思ってる。
十代くん。キミには分かるよね。
ボクは嘘をついてないよ。
だからどこにも行かないで。

「遊戯さん・・・っ!!」

ボクの想い、それが十代くんに伝わったのか、十代くんはボロボロと泣き出した。
そのまま座り込む十代くんの頭をボクは胸に優しく抱き締めた。

「どうして・・・グスッ!どうして、そんなに優しいんですか遊戯さんは・・・っ。オレはあくっ、悪魔なのに・・・っ。一緒に居たらっ、危険なのに・・・うぅ」
「そうかなぁ。十代くんがこの家に居て危険な事なんて全くなかったよ?むしろ良い事だらけだ」

泣きながら言葉を紡ぐ十代くんの髪の毛をボクは撫でてやる。

「心の中を読まれたって別に構わない。兄弟に隠し事なんていらないしね。それに問題の心の闇を刺激しちゃうその力はボクたちには効かないじゃない」
「・・・カードを実体化させて、遊戯さんたちを傷付けてしまうかも知れませんよ・・・っ」
「ふーん。十代くんは目の力を発現してまでボクたちを傷付けようとするのかな?しないよね」
「はい。しません。どんな事があってもオレは貴方と遊星を傷付けるような事は絶対しません・・・!」
「だったら問題ないよ。ボクたちは家族としてやっていける。家を出る必要はなくなったね」

だんだんと落ち着いてきた十代くんの様子がボクのその言葉でまたオロオロとし出した。
え?どうしたの・・・?

「えっと、その・・・バイトの件で遊星に心底嫌われてしまって・・・」
「えぇっ?何で?」
「さっき言った通り、一般人にはオレの力、効いてしまうんです。だからバイト先の遊星の知人・・・雑賀さん、氷室さん、その他いろいろな人がおかしくなってしまって・・・」
「だ、大丈夫なの?その人たち・・・」
「はい・・・。すぐに店を出たので、元の状態に戻りました。だけど・・・それを見てた遊星がすごく怒って・・・」




『アンタは一体何なんだ・・・!?皆がこんな風におかしくなるなんてありえない・・・!こんな事起こすなんて、まるで・・・まるでバケモノじゃないかっ!!?』
『遊星・・・!オレは・・・』
『・・・金輪際、俺たち兄弟に関わらないでくれ。アンタともう・・・顔も合わせたくない』
『っっ!!!』




「・・・という事があって・・・」
「嘘・・・。そんな事言ったの、あの子・・・」
「いつかはバレるんだし・・・、それに遊星は受け入れてくれるんじゃないかと思ってバイトするって言ったんですけど、んな事ある訳ないっすよね・・・」

遊星は常識人だし、と言ってカラカラと力なく笑う十代くん。
遊星君の言葉でここまで追い詰められちゃったんだね・・・。
やっぱり海馬君の呼び出しなんて無視すれば良かった。今度のアメリカの仕事、絶対受けないようにしよう。

「そんな事したら、海馬さんジェット機で突撃してくるんじゃ・・・」
「大丈夫。その時は城之内くんを差し出すから」

ボクのこの言葉に十代くんはもしかして・・・と呟いた。
海馬君は城之内くんに強烈な愛情をぶつけていて、城之内くんはそれにドン引きしてて・・・。
もう一人のボクは城之内くんに親友以上の感情を抱いていて、城之内くんはそれに全く気付いてなくて・・・。
この三角関係・・・、結局もう一人のボクが冥界に帰っても動かないままなんだよねー。
当事者たちはやきもきしてるんだろうけど、見てるこっちはすごく面白いよ☆

「っ、ハハッ!何ですか、それ!あの伝説の決闘者たちが!?」
「本当の話だよー。お盆の時に見れるから楽しみにしておいて」

まぁ、それはさておいて・・・遊星君をなんとかしないとね・・・。
下の弟たちのいざこざは長男であるボクが解決しなきゃ。
どうするか考えないと・・・。
だけどその前に、まだお昼ご飯食べてないから十代くんに作ってもらおっと♪
一週間ぶりの十代くんのご飯。・・・フフッ、楽しみだなぁ☆