大学から家に帰って来て、リビングのドアを開けると、そこには知らない奴がいた。
俺のお気に入りのソファに座り、ヒーローアニメを見ている。
しかもソイツは俺が夜食に食べようと思っていたコンビニのおにぎりをムシャムシャと食べていた。
コイツはいったい誰なんだ・・・?兄さんの友人か?
兄さんの友人だとしたら、きっと変人だ。
兄さんはあの傍若無人でブルーアイズに偏愛している海馬社長を「友達だよ☆」と言う変わり者だ。
変わり者の兄さんの友達は全てどこかおかしかった。
そういう自分の友人もどこかおかしいと思ってはいるんだが。
とにかく警戒しておいた方がいいだろう。
何か変な事態に巻き込まれたら、趣味のバイク弄りをする時間がなくなってしまう。
そう思い、見つからないように自分の部屋に入ろうとすると、クルッと振り返られ、マジマジと見つめられた。

「お前・・・もしかして遊星か?」
「・・・そうだが」
「おお!やっぱり!大きくなったな、遊星。オレのこと覚えてるか?」

ソファから立ち上がって近付き、馴れ馴れしく俺の肩を軽く叩くソイツにはっきり言って見覚えはなかった。
黙ったままでいるとソイツは苦笑した。

「覚えているわけ無いか。お前はまだ1歳だったもんな」
「1歳・・・?」
その年齢に俺の記憶の引き出しが開いた。
俺が1歳の頃、実はもう1人兄がいたらしい。
名前は十代。
何故十代かと言うと、あまりにも身体が弱く、もって5年しか生きれないと宣告され、せめて10歳まで生 きれますようにとの願いを込めて付けられたらしい。
だが3歳の誕生日の時、何者かに誘拐されたのだそうだ。
誘拐犯から要求の声明もなく、迷宮入りになったと兄さんが言っていた。
もしかして目の前にいるコイツがその『十代兄さん』なのだろうか。
よく観察してみると、武藤家の特徴の2色以上にわかれた髪の色とおかしな髪型を持っていることがわかった。
しかし、染めたり固めたりしているだけかも知れない。
だいたい本当に十代兄さんなら、もう死んでいるはずだ。
いったい誰なのだろうか?
考えてもわからず、黙っていると2階から遊戯兄さんが降りてきた。

「おかえりー、遊星君。あっ、もう十代くんとお話してるの?ボクも混ぜてほしいな」
「え?」
「まだ全然話してないですよ、遊戯さん。遊星ってばずーっと黙ったままなんです」
「遊星君は無口だからね。でも結構熱く語る時もあるんだよ?」
「へぇー。例えばどんな時ですか?」
「んーと、バイクとか機械系の話の時かな。遊星君は機械弄りが得意なんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください、兄さん!この人は誰なんですか!?」

仲良く語り合う2人に割って入り聞く俺に、兄さんはキョトンとする。

「遊星君、わからないの?行方不明だったキミのお兄さんだよ?」
「本当にそうなんですか?兄さんの話だと十代兄さんは身体が弱く、5歳で死んでいるはず。長くても10 歳まででしょう。それなのに目の前にいるこの人は、どう見ても健康そうだ。騙されているのでは?」
「お前、ヒデーな・・・」

ジト目でこっちを見てくるその視線を半ば無視して兄さんに詰め寄る。
兄さんは苦笑しつつ俺の質問に答えた。

「遊星君の言う通り、本当だったら十代くんは死んでる。でもね、いろいろあったんだ。ボクも詳しくは知 らないけど、何かが起こって十代くんは健康な身体を手に入れたんだ。だからこうしてまた会えた。ボクは それがとても嬉しい。遊星君は嬉しくないの?」

兄さんのその質問に俺は答えられなかった。
兄さんが確信を持ってこの人を兄弟だと言うのなら、本当に兄弟なのだろう。
だが、今まで俺の兄は遊戯兄さんだけだった。
急に現れたこの兄は俺にとって他人同然で、正直会えて嬉しいという感情は湧いて来なかった。
むしろこれからこの人と一緒に住まないといけないのかと不安が出てきた。

「ま、嬉しいわけないよな。遊戯さんとの2人っきりの生活に異物が入ってくるようなモンだし。オレなら ソイツを追い出すぜ」

まるで俺の心を呼んだかのように話すその人に、俺はハッと目を向けた。
行方不明の間、何をしていたのか知らないが、彼は今日初めて・・・というか久しぶりに弟に会えたのだ。
ここは再会を喜んで、彼を迎えるべきだった。
それなのに俺はずっと無愛想で、話しかけられても黙ったまま。
酷いことをした・・・。
俺は反省し、謝ることにした。

「すまない。急に兄ができて戸惑ってしまった」
「いいって。オレもつい最近まで兄弟がいることなんて忘れてたしな。これから仲良くしていこうぜ、遊星」

そう言ってその人、いや十代さんは俺に手を差し出してきた。
握手だろうと思い、俺はその手を握る。
しかし握り返すかと思いきや、十代さんは俺の手を引っ張り自身の右胸に押し当ててきた。
その胸は平べったくは無く、柔らかい弾力性があった・・・ていうかコレ、乳だ。

「う、うわぁぁぁぁあああッッ!??」
「お!万丈目と同じくらい良い反応するな、お前」
「え、ちょ、何してるの!?十代くん!」
「いやー、遊戯さんにも言ってなかったけど、オレ、半分女になっちまったんだ。だから兄でもあるし、姉 でもあるということを遊星に身をもって教えてやろう思って」

兄だか姉だかよくわからないその人は俺の反応に爆笑した。
兄さんは自分が触ったわけではないのに、顔を赤くし手で目を覆っていた。
俺は顔を真っ赤にして叫んだ。

「アンタには恥じらいってモンがないのか!?まるでアバズレだ!」

俺の叫びを聞いて十代さんはまた大笑いしたのだった。
これからこの人と暮らすのはやっぱり不安だ!

この後、俺はバイク弄りできたのかと言うと・・・言わなくてもわかるだろう・・・。