武藤家の三男、遊星の朝はいつも早い。
彼は日の光が家の中を照らすその前に起き出し、寝間着から黒のタンクトップとジーンズに着替え、洗面所へと向かう。 そこで顔を洗い、寝癖で乱れた髪形をセットするが、武藤家の遺伝子のせいで元々ぶっとんでしまっている遊星の髪は、常人には寝癖なのかそうでないのかが全くわからない。
それでも遊星にはわかるのか、鏡に映った自身の姿に満足そうに頷いた。
歯ブラシをくわえ、台所に向かった遊星は昨日の晩御飯の残りの味噌汁と肉じゃがを温めなおす。
その間テレビを点け、朝のニュース番組をぼんやりと眺めつつ歯を磨く。
それが遊星のいつもの朝。
だが彼の朝に最近、もう1つ行動が付け足されるようになった。
朝の占いが終わり、彼は2階に上る階段を見た。
2階には彼の2人の兄の部屋があった。
少し前だったらこの時間には長男が起き、リビングに下りて来ていた。
しかし下りて来る気配が全く感じられなかった。
遊星は2階に上がっていく。
そして突き当たりにある長男、遊戯の部屋のドアをノックして入った。

「またか・・・」
「ゆ〜せーく〜ん!助けて〜!」

遊戯の助けを求める声に、遊星はため息をつく。
ベッドで寝ている遊戯の体をガッチリと抱きしめ、幸せそうに眠っている次男女、十代がそこにはいた。

「さっさと引き剥がして起きてください、兄さん。飯が冷めます」
「そ、そんなことできないよ〜!動く度に十代くんの胸が当たって動くに動けないもん〜ッ!遊星君お願い!助けて〜!」
「30の大人が『〜だもん』とか言わないでください。だいたい俺が昨日取り付けた南京錠を使わなかったんですか?」
「ちゃんと使ったよ〜!でも何故かそこでひしゃげているんだ。ほら、遊星君の足元に落ちているでしょ?」

遊星は足元を見る。
そこには何か強烈な力で握り潰され、ほとんど原型を留めていない南京錠があった。
理解できない事態は全て次男女のせいと決めている遊星は、とりあえず十代の頭に肘を振り下ろした。

「いっってェェェ!!?」

飛び起き、うずくまりながら悲鳴を上げる十代。
遊星はそんな十代の首根っこをつかみ、遊戯のベッドから降ろす。
そのまま引きずられ、部屋から退出させられる十代を遊戯は引きつりながら苦笑いを浮かべ見送った。
遊星は十代を遊戯の部屋の隣に新しくできた十代自身の部屋に放り込み、1階に下りる。
リビングに向かった彼は食器乾燥機からお椀と小皿を取り出し、食卓に並べた。
そして温め終わった味噌汁の鍋と肉じゃがが盛り付けられた大皿を食卓の中央にデンと置く。
茶碗にご飯をよそっていると、遊戯がジャケットを羽織りながら階段を下りて来た。

「おはよー、遊星君」
「おはようございます、兄さん。・・・十代さんは?」
「まだ痛がってたよ・・・。もう少し優しくしてあげたらどうかな?一応兄弟なんだし・・・」
「優しくしたら、毎晩兄さんのベッドに潜り込むあの人が俺のベッドに来そうで嫌です」

その言葉に遊戯は黙ってしまった。
毎朝ふと目覚めると、自分の身体に抱きついて寝ている十代。
スキンシップに慣れていない遊戯は気恥ずかしくテレてしまい、若干十代を持て余していた。
一緒に暮らすうちに、十代の愛が異様に重いことを身をもって知ってしまった遊戯は、それ以上言えず、そのまま黙って食卓の席に着いた。
遊星は遊戯の前に茶碗を置き、十代の分と自分の分をまたよそう。
よそい終わり自分の席に着いた遊星は手を合わせ、いただきますと遊戯と共に言った。
遊戯と遊星は味噌汁をお椀に入れると口を付け、ホッと息を吐く。

「十代くんが来てから、この家の食事環境はホント良くなったよね」
「フリーズドライの味噌汁は、悔しいですけどもう飲めませんね・・・」

十代は見た目、何も作れなさそうだったが意外と料理がうまく、レパートリーも豊富だった。
稼ぎはいいが、作れるものは何もない遊戯。
頭はいいが、作れるものがカップ麺だけの遊星。
あまり十代を歓迎していない遊星だったが、こればかりは喜ぶしかなかった。
レンジで温めなおした肉じゃがなのにまだホクホクしているジャガイモの不思議さに感心しながら食べていると、十代が頭をさすりながら2階から下りて来た。
食卓のイスに座り、突っ伏した十代は遊星をジトッと睨む。

「ゆーせ〜、お前手加減しろよ。オレじゃなかったら頭蓋骨陥没してんぞ」
「アンタが兄さんとの約束破るのが悪い」
「遊星君はちょっとやり過ぎだよ・・・。でもこの前約束したよね、十代くん。もうボクのベッドに入り込まないって」

十代は遊戯を見て申し訳なさそうにした。

「すいません、遊戯さん。オレも昨日こそ遊戯さんの部屋に行かないぞと決心していたんですけど、何故か目が覚めたら遊戯さんに抱き付いていて肘打ちを喰らっていたんです。故意じゃないんです。無意識なんです。許してください」

それに遊戯は困った顔をする。
無意識に部屋の内側に取り付けられた南京錠を握り潰し、無意識に自分の部屋に侵入する十代を誰が止められるだろうか?
十代は遊戯の両手を握り、上目遣いで見つめる。

「だからもういっそのこと一緒の部屋になりません?」
「結局それが狙いか、アンタ」

間髪を容れずつっこむ遊星に十代はキリッとする。

「むしろ風呂も一緒に入りたい」
「そっ、それだけは勘弁して!」
「半分女なんだったら、もう少し恥じらいを持ってくれ!」

両手を引き抜き恥ずかしがる遊戯と顔を少し赤らめた遊星をつまらなさそうに十代は見た。
ブスッとした顔になった十代は、箸でつまんだジャガイモを齧り、呟く。

「オレ、家族ができたら絶対一緒に風呂に入って、一緒のベッドで寝て、遊んだりすんのが夢だったんだ。一度もそういう経験したことないからさ・・・」

遊戯と遊星は顔を見合わせた。
2人とも子供の頃何度かやったことがあることだった。
十代は誘拐されていた間、そういう経験ができなかったのか・・・と2人は思った。
少しぐらいのスキンシップは許してやるべきだったのかも知れない。
2人は仕方ないなという気分になり、イスに座りなおした。
だが、それをぶち壊す発言を十代が言った。

「まあ、遊戯さんに抱き付いたりしているのは別に家族だからというわけじゃなくて、純粋に憧れのデュエリストに抱き付きたいというミーハー心からきているんだけどな。そばに遊戯さんがいるのに何もしないとかありえねぇし」

テレテレとテレながらそんなことを言う十代に、遊戯と遊星は脱力してしまい、食卓に同時に突っ伏した。
そんな2人を、十代は自分が作った味噌汁をすすりながら不思議そうに見つめたのだった。