今日の仕事を終えて家に帰って来たら、また2人がケンカをしていた。
と言っても、ボクにはじゃれ合いにしか見えないんだけど。
だって、本気でいがみ合ってるわけじゃないから。
それに十代くんは遊星君が突っ掛かってくるのを楽しんでるしね。
いいなぁ。ボクも混ぜて欲しい。
そうやってしばらく見ていると2人がボクに気付いた。
「遊戯さんお帰りなさい!」
「お帰り、兄さん」
十代くんがボクに抱き付いてくる。
何度も抱き付かれてもう慣れてきた。
初めて兄弟として再会した時にはこんなにスキンシップは激しくなかったのになぁ。
あの時は思慮深い大人になったんだねと感動したのを思い出してボクは苦笑した。
だけどギューと抱き付かれ、息が苦しくなってきたからいつものように背中を軽くポンポンと叩く。
そうすると十代くんは満足してボクを離してくれるのだ。
遊星君はその間渋い顔でコッチを見ていた。
今日は何があって機嫌を悪くしたんだろうね?
「兄さん、この人に言ってやってください。俺が言っても聞かないんです。お願いします」
「えーと、何を?」
「働けってことをです」
「あー・・・」
「兄さんはプロデュエリストとして働いている。俺も大学に通いながらバイトしてます。でもこの人は何もしていない。毎日家でダラダラしているだけです。もうこの人は20歳なんですよ?働ける年齢なのに家に引きこもっているこの人は紛れも無くニートだ!」
バーン!という効果音がなりそうな程、遊星君は断言する。
ボクも薄々というか、かなりそう思っていたことだけに反論はできない。
話題の中心の十代くんをチラリと見るとあらぬ方向を見て口笛を吹いている。
今まで見て見ぬふりをしていたけど、長男としてこの事態は何とかしないといけないよね・・・。
帰って来て早々、この難問に取り組むのは頭が痛かったけど、いつかは話し合わないといけないことなんだ。
この機会に何とかしよう、うん。
ボクは意を決して十代くんの肩を掴み、語り掛ける。
「十代くん・・・あの・・・やっぱり人間働かないとダメだとボクは思うんだ。生きる為には働かなくちゃいけない」
「遊戯さん、その・・・」
「もう子供の時のように生きているだけで食べさせてもらうのは無理なんだ。それは大人になった十代くんならわかるよね?」
「はぁ・・・」
「いきなり働けなんて言われてしんどいだろうけど、遊星君もボクも十代くんを心配して言ってるんだ。だから」
「ちょっと待ってください!遊戯さん、オレ、別に働きたくないなんて言ってませんよ?」
「えぇ?」
十代くんの心外そうな顔にボクは目を丸くする。
遊星君も驚いたのか口をポカンと開けていた。
頬をカリカリと掻きながら十代くんはため息を吐き、説明する。
「オレだって働きたいんです。遊戯さんや遊星の迷惑になりたくないし。でもオレが働くとドンドン周りの人間がおかしくなるんで働けないんですよ」
その説明に遊星君はプルプルと震えながら聞く。
「・・・ようするに、周りの人間のせいで働けないってこと・・・」
「まあ、そうだな」
「働きたくない奴がよく言う理由の1つじゃないか!?やっぱりアンタ働きたくないんだろ!」
遊星君は怒って、十代くんの襟元を掴み揺さぶる。
十代くんは揺さぶられながらもどこか嬉しそうにしていたが、あんなに揺さぶられたら最悪吐いてしまう。
ボクは止める為に遊星君をなんとか十代くんから引き剥がす。
こんなにアグレッシブな子じゃなかったんだけど・・・どうも十代くんと関わってから遊星君は感情表現が豊かになったようだ。
そのうち怒り以外の感情表現がもっと豊かになるかも知れない。その時がボクはとても楽しみだ。
ふと十代くんの方を見ると、十代くんは珍しく難しい顔をしていた。
遊星君は生憎とふて腐れたように下を見ていたから十代くんのその表情は見ていなかった。
十代くんはボクの視線に気が付くと、いつものいたずらを企んでいる少年のような表情へと素早く戻す。
その瞬間、ボクは十代くんとの間に壁を感じた。
隠す必要なんてないのに。
ボクは詳しく知っているわけじゃないけど、十代くんが学園生活で何を経験して大人になったのかだいたい知ってるよ。
そんな風に子供のような笑みをいつも作らなくていいんだよ。
十代くんの闇を見たからってボクは嫌わない。
キミはボクの大切な弟なんだから。(あれ?妹だっけ?)
その時、十代くんが一瞬だけ泣きそうな顔になった。
なんだかまるでボクの心中の思いを読み取ったかのような感じでボクは驚く。
まさか、ね。
十代くんはボクに向かってニッコリと笑うと遊星君に言った。
「よーし、遊星。お前にちょっくらオレが働いてるところ、見せてやるよ」
「え?う、うそだろ?」
「うそじゃないっての。そんでもってオレが働くと周りの人間がどうなるか見てるといい」
「じゃ、じゃあ・・・俺の知り合いがカードショップを営んでいるんだ。そこで働いてみてくれ」
「いいぜ」
十代くんが働くと言ったのに、遊星君は浮かない顔をしていた。
こんなすぐに働くなんて言うと思ってなかったみたいだ。
そして自信満々な様子に不安も出てきたのだろう。
ボクも少し不安になった。
周りの人々がおかしくなるってどういうことなんだろう?
大変な事態になりそうな予感にボクは身震いした。