今日の授業の終わりに昨日やった小テストが返された。
こないだの小テストよりはマシでちょっと嬉しい。
デュエル以外はからっきしのオレがよくこれだけの点数を取れたモノだと悦に入ってると、後ろから腕がいきなり伸びてきて小テストを奪われた。
驚いて後ろを振り返ると(オレと同じくらいの背のくせに)2つ年上の学校の先輩かつプロデュエリストのエド・フェニックスがオレの小テストを見ていた。
オレの顔が羞恥心で真っ赤になる。
前よりマシとは言っても、天才のエドから見たらありえない点数だ。
よりにもよってエドに見られるなんて・・・。

「ふーん・・・。こんな点数しか取れないのか?本当にキミは馬鹿だなぁ、十代」
「うっせー!わざわざ1年の教室に来てまでバカにすんな!さっさと3年の教室に帰れエド!」

ああ・・・、またあの2人ケンカしてる・・・という声が周りから聞こえてきた。
そう、オレとエドは会う度にケンカしている。道端でも廊下でも会ったらすぐケンカ。
ケンカしたくてしてるわけじゃねぇぞ。
エドがムカつくことばっかり言うのが悪いんだぜ?
本当は仲良くしたいんだ。
だってオレは・・・エドが好きだから。
嫌みばかり言う年上のコイツを何で好きになってしまったんだろう?
考えてもわからない。
自然と好きになってたんだ。
出来るなら和やかに話したい・・・。
好きな奴といがみ合うなんて誰だってしたくないだろ。
だからオレは出来るだけ怒らないようにいつも努力しているのに、コイツときたらその努力を粉砕するんだ。

「この問題なんて間違えようもないじゃないか。どうしてこの答えになったのか教えて欲しいよ」
「・・・・・・」
「ただでさえ物覚えが悪いんだ。少しは勉強したらどうだ?」
「・・・」
「それとも勉強してこの点数なのか?かわいそうに・・・」

もう無理。

「あああああ!!ムカつくうううう!!!エドなんて嫌いだ!もう話しかけんな!」

他の奴が言うならまだしも、エドにボロカスに言われて悔しかった。
そして何よりも悲しい。
耐え切れなくて、オレはエドを押し退けて教室から飛び出した。

「アニキ!」

翔もオレを心配してか一緒に付いて来た。
こんな時心配してくれる友達がいて良かったと心底そう思った。


十代に嫌いだって言われた・・・。
最悪だ・・・。
十代のことが好きなのに、どうしてこうボクは素直に気持ちを言えないんだろう。
本当は、褒めるつもりだったのに。
がんばったなって。前よりもいい点数を取れて良かったなって。
それなのに十代に話しかけようとすると気恥ずかしさで正反対のことを言ってしまう。
これで何度十代の怒りを買ったことか・・・。
もうずっと十代の怒った顔しか見れていない。
十代の笑顔が見たい。あの太陽みたいに心を暖かくさせる最高の笑顔を・・・。
だけど当分無理そうだ・・・。
嫌われてしまったからな・・・。
今まで何度もケンカしたけど、嫌いとまでは言われなかったのが唯一の救いだったのに。
思わずため息が出る。
その瞬間、頬を思いっきり平手打ちされた。
倒れることはなかったが、あまりの痛さに仰け反る。
ボクはジンジンと熱を持った頬に冷たい自分の手を当てながら、平手打ちした相手を見た。
その相手はボクの同級生の妹の確か・・・明日香という名前の奴だった。
十代に殴られる覚えはあるが、この女に平手打ちされる覚えはない。
不当な仕打ちにボクは怒りが込み上げてきたので睨む。
その途端、目付きが気に入らないとでも言うかのようにもう1度ボクの頬に手を振り下ろしてくる。
そう何度も平手打ちを甘んじて受けるボクじゃない。
手を受け止めて動かないように固定した。

「ボクは女性だろうが、敵意を向ける相手には容赦しないぞ。・・・何故ボクにこんなことをした?」
「あなたが十代を傷付けたからよ・・・!」

彼女はボクの質問に腕を振り解きながら答える。

「あなたって最低!どうして十代を傷付けるようなことをわざわざするの!?十代のことが好きなんでしょう!?」
「それは・・・」
「好きな人を傷付けることしかできないのね。馬鹿はあなただわ、エド・フェニックス」

年下の女に馬鹿呼ばわりされたのにボクは何も言い返せなかった。
自分が悪いと思っていた所をいざ他人にも悪いと言われたらこんなに苦しいとは思わなかった・・・。
黙ってしまったボクを彼女が冷たい目で見下ろすのがわかった。
その失望と侮辱の視線に腹が煮え繰り返るようだった。
しかし怒りに任せて言えば、それはボクを惨めにするだけだ。
何を言っても十代を傷付けたことは事実なのだから・・・。
葛藤に苦しむボクに彼女は言葉を投げ付けてきた。

「これまであなたたちを見守るつもりだったけど、もうやめるわ。十代は私がもらう」
「なっ!?アイツは男みたいだが、アレでも女だぞ!?」
「そんなこと、あなたより知ってるわ。でも私、性別なんて壁感じない程十代のことが好きなの。それにあなたより私の方が十代を幸せに出来るわ」

女同士でも構わないと言い切る彼女はとても凛々しく、その意思の強さにボクは圧倒された。
ボクはここまで強い想いを持って十代と接したことがあっただろうか?
ちゃんと素直になろうと努力しただろうか?
いつも恥ずかしいからと言い訳して、優しい言葉を掛ける努力をしていなかった。
今度こそと言って、後回しにしていた。
ああ、そうか・・・。
ボクは素直になる努力をせず、ウダウダと考えるあまり、どうすれば十代を笑顔にさせることが出来るのかわからなくなっていたんだ・・・。
素直になった今ならわかる。
本当は簡単なことだったんだ。

「キミに十代は渡さない」
「・・・そう」
「気付いたんだ。どうすれば十代を笑顔にさせられるか」
「・・・じゃあ、今からあなたが何をすればいいのかわかるわよね?」
「!まさか・・・」
「勘違いしないでちょうだい。私はあなたを応援しているわけではないわ。十代を早く笑顔にさせたいだけよ」

そう言うとボクのライバルとなった彼女は唇を引きニッと笑う。
仁王立ちで腕を組む彼女は本当の男より男らしく、強敵だという印象を強く受けた。
まさか女がボクの恋のライバルになるなんて思ってもいなかったが、デュエルと同じようにどんな人間が好敵手になるかわからないということなのかも知れない。
ボクはその場を後にして、屋上へと足を向けた。
アイツはいつも嫌なことがあった時、屋上にいるから今度もきっとそうだ。
待っててくれ、十代。