「十代が帰ってきたって本当なのか!?」
その知らせを聞いたのはオレたち留学生が本校に帰らなければならない3日前の日だった。
その日オレはブルー寮の自室でジムやオブライエンと会話もせず、ただぼんやりと十代のことを想っていた。
十代とこのまま会えないまま帰らなくちゃいけないなんて・・・。オレは十代にまだ告白できてないのに。
好きだって・・・、誰よりも大好きだって言えてない。
いっそレインボードラゴンの力でまた異世界に行って十代を探そうか・・・。
そう思っていた時に翔が知らせに来てくれたのだ。
「ちょっと落ち着いてよ!キミってば予想外にムキムキで力が強いんだから肩をつかまないで!」
「あー、ゴメンゴメン」
興奮しすぎて思わず力が入り翔の肩を握り潰しそうになっていた。
つかんでいた翔の肩を放すと服がヨレヨレになっており、それをできるだけ戻そうと翔は袖を引っ張った。
だがそれは無駄な努力だったようで、すぐにまた同じ状態に戻った。
このフリル・・・、マジでムカつく!と翔はオレを睨めつけながら敵意を剥き出してきたが、当初の目的を思い出したのか一つ咳払いをしてオレの質問に答えた。
「本当っス。ビックリするような帰り方で昨日の夜に帰ってきたんス」
「ビックリ?どんな帰り方だったんだ?まぁ、いいや。十代が帰ってきたのなら今すぐ会いに行かないと!」
十代に会いたい!
ただそれだけを想ってレッド寮に向かおうとした俺を翔があわてて制止してきた。
腕をつかまれ、後ろに倒れそうになる。
「ダ、ダメだよ!今レッド寮に行っちゃダメ!」
「ハァ?」
コイツ何言ってやがる・・・、嫌がらせか?と思ったが、どうも翔の様子が変だ。
いつもの翔ならもっと腹黒い顔をしながら嫌がらせをするのに、今日の翔は理不尽なことを言っていると理解しているようだった。
「キミがずっとアニキに会いたがってたのはわかってるっス・・・。ボクだってそんなキミを邪魔したくないよ。でもアニキ・・・、今誰とも会いたくないんだって・・・」
「会いたくないって・・・、本当に十代がそう言ったのか?信じられない。オレの十代はそんなこと言わないぜ?」
「さりげなくオレのって言うなっ!アニキはボクのっス!・・・まぁ、信じられないよね。ボクも理解できなかったもん」
翔はそう言うと悲しそうにため息をついた。
そして腰につけたデッキホルダーからデッキを取り出した。
「コレ、キミのデッキっス」
「オレが十代に渡したデッキ・・・!嘘だろ・・・」
「アニキが渡してくれって。直接返せなくてゴメンって言ってたっス。・・・こんなの渡されちゃったら本当に会いたくないんだって理解するしかないっスよ」
信じられなかったが、デッキを手に取った瞬間、オレの家族である宝玉獣達の声が聴こえた。
・・・ありえない。こんなことを十代がするなんて絶対ありえない!
デッキを他人に返してもらうなんてやってはいけないことだ。
デッキはデュエリストにとって命よりも大事な物。
その大事なデッキを人に貸すというのは信頼がなかったらできない行為だ。
貸してもらった者はその信頼に応えて自らの手で返す。
それが暗黙の了解だ。
十代はオレが認めた最高のデュエリスト。
それがわかっていないはずはない。
だとしたら何かあったのかもしれない。
「あっ!待つっス!ヨハン!」
「会いたくないなんて嘘だ!何か会えない事情があるんだ、絶対!十代がオレに会いたくない理由なんて一つもないからな」
「その自信はどこから出てくるんスか!?このジャイアンデルセンめっ!」
翔が止めてきたけど、オレはそれを振り切ってレッド寮に向かって走った。
オレは方向音痴だけど今はこのデッキがある。今までに何回も宝玉獣達に道案内をしてもらってレッド寮にたどり着いてきた。
オレは高らかに小さな相棒の名を呼んだ。
「ルビー!」
『ルビビ?』
「会いたかったぜ、ルビー!でさ、悪いんだけど久しぶりにレッド寮まで案内してくれないか?頼むよ」
オレの頼みにルビーはしょうがないなとでも言いたげに頭をゆらした。
そして一声鳴きオレの前を走り出す。
「サンキュー!ルビー!」
ルビーに礼を言い、オレもレッド寮に向かって走った。