ルビーに案内されレッド寮にたどり着いたオレは息を整え、2階に上がる階段に足をかけた。
足の長さと体力で距離が空いたとはいえ、早くしないと翔が追いつくだろう。
階段を駆け上がり、十代の部屋の前に立ったオレはドアノブを回した。
だが予想に反してドアは開かず、ガチャガチャと鳴るだけだった。

「鍵がかかってる・・・のか?」

十代の部屋に鍵がかかってるところなんて今まで一度も見たことがなかった。
寝ている時や外出中でも彼は鍵をかけなかったのに。
鍵がかかったドアがまるで十代自身の心のように見え、少し不安が脳裏をよぎった。
大丈夫。きっと十代の気まぐれだ。気にすることはない。
そう信じ、オレは部屋の中にいるであろう十代に届くように声を張り上げた。

「十代!いるんだろう?オレだ!ヨハンだ!鍵を開けてくれ!」

十代の返事を待って少し黙る。
しかし、何の返事も返ってこない。
いないのかな・・・、と諦めにも似た気持ちになってきた瞬間、中から声が聞こえた。

「十代?」
『・・・ヨハン、来たのか』
「あ、ああ。キミに会いたくて・・・」

本当にこの声は十代なのだろうか?
まるで人生に疲れきった老人のように覇気のない声だった。
十代の声はもっと躍動感にあふれていたはずだ。
友達や明日があることにいつも喜んでいた彼にはまずふさわしくない声だった。

『翔に聞かなかったのか?・・・オレが今誰とも会いたくないって』
「聞いた・・・。けど信じられなかったんだ。十代がそんなこと言うはずがないって」
『悪いけど事実だ。オレは、ヨハン、たとえお前であっても、今会いたくないんだ。帰ってくれ』
「な・・・!何でだよ、十代!理由を言ってくれないとわからない!」

冷たくオレと会話する十代は、オレの叫びに少し黙った後、口を開いた。

『・・・理由なんてない。ただ会いたくない。・・・それだけだ』

それっきり何も話さなくなる十代。
どうして彼はこんなにも会うことを拒絶するのだろうか。
いつもの彼らしくない。まるで会うことを恐れているかのようだ。
何故?
それがわからない。彼は異世界を旅するうちに変わってしまったのだろうか?
だけどなんとなくわかったことがある。

「もしかしてさー、十代。オレのデッキを翔に返させた理由ってさ、オレを幻滅させて遠ざけようとしたのか?」
『! べ・・・、別にそんな理由じゃねぇよ』
「キミって・・・、相変わらずオレに対して嘘つけないよな。そこは変わってなくて安心したぜ」

オレと十代は性格などが似ているせいか、お互いに考えていることがなんとなくわかり、嘘をついてもすぐにわかった。 十代と夜通し語り合ったあの楽しかった日々を思い出し、オレは思わず笑ってしまった。
そして十代も思い出したのか、笑っている気配がした。

『あ〜あ。ヨハンにはやっぱり嘘つけねぇな』

その声はまだ気だるさを含んでいたけど、オレが聞きたかった、オレの大好きな十代の声だった。

「十代。キミが何をしたってオレは離れないぜ。本当はわかってたんだろ?無駄だって」
『・・・ああ。でもオレはどうにかしてヨハンと離れないといけないと思ったんだ』
「何でだよ?」
『オレは・・・、みんなに、特にヨハン、お前には傷付いて欲しくなかったから・・・』
「?」
『またこの学校に新たな敵がやってくる。そしてオレはソイツと戦わなくてはいけない』
「この学校がまた戦場になるっていうのか!?」

それが本当だとしたら、確かにまたみんな傷付くだろう。だからと言って周りから人を遠ざけていいわけがない。
1人の力でできることなんて限られているんだ。
また強大な敵が現れるというのなら、みんなと力を合わせなくてはダメだ。
だいたい十代はみんなが傷付くことを嫌がっているが、みんなだって十代が傷付くことを嫌がっているのをわかっているのだろうか?

『だからヨハン・・・、もうオレと関わら「ふっざけんなよ!十代!!」』

オレの怒声に十代が驚き、息を呑む音が聞こえた。

「キミは全然自分の身を大切にしてない!1人で背負い込むな!キミが戦っている時、キミの背中は誰が守るんだ!?オレたちだろ!? キミにとってオレたちはただ守るだけの存在なのか!?違うだろ!?一緒に肩を並べて戦う仲間だろ!? オレたちが傷付くことを恐れるな、十代!人は傷付くことでまた成長するんだ!」
『ヨハン・・・』
「オレは一緒に戦うぜ、十代!キミが何と言おうと、オレはキミから離れない」