遊星君は昔から歳の割に大人しかったし、ボクも内向的だから兄弟喧嘩なんてした事ないって思われがちだけど、遊星君が幼かった頃に結構衝突している。
さすがに12歳も歳の差があると突っかかってきても可愛く思えちゃうし、本気で相手にはしてないけど。
何にでも興味があって、全部自分がしたい年頃なのにボクがつい手助けしちゃったりして嫌がられたな〜。
それにボクが頼りないからか、人一倍自立心が強く育っちゃったし。
余計ボクにイライラして怒ってきたんだろう。
ふふ、あの頃の遊星君可愛かったなぁ。
ボロボロ泣いて、顔真っ赤にしながら怒ってくるんだよ?
子供の頃って感情が高ぶり過ぎるとつい泣いちゃうよね。
ホント、可愛かったなぁ・・・。
まぁ、今でも可愛いと言えば可愛いけど、感情とか表情がどこに置いてきたのかっていうぐらい動かないからね〜・・・うーん。
あ、話が脱線しちゃったね。
この話は置いておいて・・・。
何度も兄弟喧嘩したから、ボクはその後の遊星君の行動が分かる。
遊星君は、喧嘩した相手と顔合わせるのが気まずいから友達の家に引き篭もるんだ。
意地っ張りだから放っておいたら全く帰って来ないんだよね、あの子。
何度迎えに行った事やら。
十代くんと喧嘩した遊星君は一週間ずっと家に帰ってきてないらしい。
もう間違いないよね。
遊星君は絶対、親友のジャック・アトラス君の家にいる。
あんまり人の迷惑になるような事はしない遊星君だけど、こういう時だけ遠慮なく居座るもんだから・・・。
ああ〜・・・、ジャック君きっと怒ってるよね・・・。
海馬君よりはそんなに怖くないけど、あの身長と大きな声で怒鳴られると身が竦むんだよね〜。
ま、そんな態度は表には出さないけど。
もうボクは大人だからね。





という訳で今、ボクはジャック・アトラス邸にいるよー。
別邸の一つで、ここはジャック君個人の家としてプレゼントされた物らしい。
お金持ちはやる事が桁違いだね。
ボクもプロデュエリストだからそれなりに持ってるけど・・・こんな大胆な使い方は一生しないなぁ。
メイドさんはいっぱいいるし、調度品も高そうな物ばかりだし、一つ一つの部屋だって広いし、庭園すらあるし・・・維持費とかどれぐらい掛かってるんだろう?
想像したくもないや。
やっぱりボクはどれだけお金を稼いでも庶民にしかなれないよ。
フカフカのソファに身を沈ませながら、傍らにいるメイドさんが淹れてくれた紅茶を飲みながらボクはそう思った。
十代くんお手製のお昼ご飯を食べてから真っ直ぐここに来たけど、まだジャック君は帰ってきてないそうだ。
ボクとしてはジャック君が帰って来るのを待たずに、さっさと遊星君が居る部屋に行きたい。
けど、家主の許可なく客人が勝手に邸内を歩きまわるのは遠慮して欲しいとメイドさんに言われてしまったら、待つしかないよね。
・・・今頃、十代くんどうしているのかな・・・。
泣いてないかな。悲しい顔してないかな。
早く仲直りさせてあげたいよ。
十代君を想い、目を閉じているとメイドさんが動く気配がした。
青みがかった髪をショートカットにした綺麗なメイドさん。
このメイドさんはボクの予想だとメイドの中でも一番立場が上のメイド長だと思う。
だって門からこの客室まで案内してくれた他のメイドさんがお辞儀してたから。
不快にならないよう見えない位置に側控え、人の意向を読み取って仕えてくれる完璧なメイド。
そのメイドさんがいきなり動いたから、ちょっとビックリ。
何するんだろうと見ていると扉を静かに開けた。
数秒後、ジャック君が部屋に入って来て目を丸くしちゃった。
だってここの廊下は毛足の長い絨毯を敷いているおかげで足音が全くしないのに、このメイドさんはジャック君が入って来る抜群のタイミングで開けたんだよ?
訓練されてるんだなぁって感心。

「ようやく来たか」
「ごめんね。迷惑かけちゃって」
「まったくだ。どうして一週間も放っておいた?」

ジャック君はボクを見てため息を吐きながらボクの向かいのソファに座った。
すかさずメイドさんが紅茶をカップに淹れ、ジャック君の前に置く。
ふとそのメイドさんの顔を見ると目が潤んでいて頬が赤く染まっていた。
ああ。訓練とかじゃなくて愛の力ね・・・。
ジャック君は子供の頃からモテてたもんね・・・。

「仕事の関係で海外にいたから、知らなかったんだ」

少しジャック君から目を背けつつも答えると、ジャック君はボクの言葉に片眉を上げた。

「知らなかっただと?今回は兄弟喧嘩ではないのか?」
「兄弟喧嘩だよ。遊星君のもう一人の兄とのね。あ、この場合姉とも言った方がいいのかな・・・」
「は?」
「十代くんっていうんだけど、ジャック君は覚えてるかな?」
「いや、待て・・・。何を言ってるのかさっぱりなんだが」

お前たちは二人兄弟だろうと混乱したように目を瞬かせるジャック君にボクは苦笑いしてしまう。
赤ん坊だった頃からの幼馴染であるジャック君はボクら兄弟に近い存在だ。
それなのに知らなかったこの事実。
知らないというより覚えてないと言った方がいいのかも知れないけど。
だってジャック君は十代くんと昔会った事ある。
だけど2歳ぐらいの時までだし、覚えてないのは当然かな。
それを知った今、混乱の極みにあるんだろうけど、落ち着くまで待ってたり説明してる暇はない。
ごめんね?ジャック君。

「覚えてないんだったらまた今度遊星君に説明してもらってね。メイドさん、ジャック君に挨拶したからこれで遊星君の所に行ってもいいよね?」
「え?あの」
「いいよね?」

にっこり笑って念押しするように言うと大抵の人は何故か青ざめて頷いてくれる。
でもこのメイドさんは顔を青くしながらも頷かない。
うーん・・・、ジャック君がまだ許可してないからかな?
さすがあの傍若無人なジャック君のメイドをしているだけあって意思は強いみたいだ。

「狭霧、かまわん」

どうしようかと悩んでいたら、いつの間にか落ち着いていたジャック君がメイドさんに声を掛けてくれた。

「アトラス様!よろしいのですか?」
「好きにさせろ。・・・それと、後で俺の幼少の頃のアルバムを持って来い」
「分かりました」

ジャック君の言葉に静かに一礼すると、メイドさんはボクの為に扉を開けてくれた。
メイドの鑑だなぁ。
ちょっと羨ましくなっちゃった。
主人の事を第一に考えて行動してくれるメイドさんなんて今時いるとは思わなかったよ。
それにしても小さい頃の写真かぁ。 ボクの『覚えてるかな?』って言葉に記憶がおぼろげな頃を記録してる物を即座に思い浮かべるなんてさすがだね。
でもジャック君と十代くんが一緒に写ってる写真ってあったかなぁ・・・。
もしあったら見てみたいね。