『ヨハンはいつもそうだ』

ドアの鍵が外される音が聞こえた。

「オレの心を動かす。お前たちをこの戦いに絶対に関わらせないと決めていたのに」

ドアが開かれるとそこには今までとは違う、子供っぽさが抜け、颯爽とした青年の姿に成長した十代がいた。

「十代!」
「今からやめたいなんて言っても聞かないからな。オレの背中を守れよ、ヨハン」

十代はそう言うと少し照れたように床に視線をさまよわせた。
そんなしぐさが予想外にかわいくて、そして久しぶりに十代の姿を見れたことがうれしくてオレは思わず十代を抱きしめた。

「十代!会いたかった!すごく会いたかった!」
「ヨハン・・・。オレも本当はお前に会いたかった。会いたくないって嘘ついてゴメン・・・。それにお前の大切なデッキを・・・」
「いいんだ、もう。オレ、ちゃんとわかってたから」
「うん・・・」

オレは十代を強く抱きしめ、そして軽く触れるだけのキスを十代の唇に落とした。
十代の目が開き、オレを驚いたように見つめてきた。

「ヨッ、ヨハン!?」
「オレ・・・ずっと十代のことが好きだったんだ。オレ男だし、十代も男だし、こんなの間違ってるよなって思ったことあった。 けど、それでも好きだってことに気付いたんだ」
「・・・」
「もうオレは本校に帰らなくちゃいけない。だけどその前にキミに告白したかったんだ」
「ヨハン・・・。オレもお前のことが好きだ。けど、オレなんて好きになっちゃダメだ」

十代はそう言うとオレの目を手でふさいだ。
そして手がどけられるとそこにはユベルと同じ雌雄同体の姿をした十代が空中に浮かんでいた。
二色の瞳を光らせ、十代はオレを悲しげに見つめた。

「だってオレ、もう人間じゃねぇもん。老いることもないし、死ぬこともない。お前みたいなキラキラした人間にはふさわしくないんだ」

十代の声の調子が急に変わったわけがようやくわかった。
十代はもう人生を達観してしまっているんだ・・・。

「だけど、それが何だって言うんだ、十代」
「え・・・?」
「キミがたとえ人間ではなくなっても、オレはキミを愛してる。人間ではなくなったからって、それでキミの価値が 変わるわけないじゃないか」

そう言うと十代の目から涙が1雫こぼれた。

「ヨハン・・・」
「オレにふさわしくないなんて決め付けるな、十代。キミはオレが認めた最高のデュエリストなんだ。自信を持て」
「ヨハン・・・いいのか?お前の人生をオレがもらっても・・・」
「ああ。オレの人生、キミにすべて捧げるぜ」

オレが両手を広げると十代は翼をはためかせ、オレの胸に飛び込んできた。

「ヨハン・・・!ヨハン!初めて会った時から好きだった!愛してる・・・!」

涙をポロポロとこぼし告白する十代が愛しく、オレは言葉にならないほど感情が高まった。
だから、ただただ十代をきつく抱きしめた。
そして十代の唇にもう一度キスをしようとした瞬間、オレの頭に何かが突き刺さった。
十代を抱きしめていた手を離し、頭に手をやり突き刺さったものを抜き、確かめる。
それは翔の切り札の1つ、『スーパービークロイド−ジャンボドリル』だった。
手すりから下を見ると翔が鬼のように恐ろしい顔でこちらを睨んでいた。
翔が立っている場所からこの2階まで遠いというのに、オレの頭をカードで突き刺すその怨念じみた力には感心するしかなかった。

「・・・前々からキミが邪魔だったんだ。今ここでキミを倒してアニキの愛をボクは取り戻すっっっ!!!下に下りて来い! ボクが勝ったらそのフリルを引きちぎって、キミを踏みつけて、『今までのことを謝ります!十代の愛は翔様のモノです!2度と十代に近付きません!』 って言わせてやるっ!!」
「お〜、じゃあオレが勝ったらオレと十代の仲を邪魔せず、むしろ応援しろよ」
「望むところっス!!」

翔の妨害は十代と付き合う以上ずっと続くだろう。ここは勝ってひとまず翔に認めてもらうしかない。
そう思って下に下りようとしたが、十代が腕をつかみ引き止めてきた。
十代と目を合わせると何故か戸惑っているようだった。

「どうしたんだ?十代」
「どうして翔はこの姿を見ても何も言わないんだろう・・・?」
「そりゃあ、翔もキミの外見が変わろうと十代の良い所は変わらないってちゃんとわかってるからだろ」

下に目をやると翔は十代に向かって「アニキー、待っててね!すぐにフリルの魔の手から救い出してあげるからーっ!」 と叫んでいた。

「だろ?」
「ああ・・・、そうだな。良かった・・・」

そう言って微笑んだ十代があまりにも綺麗で、オレは思わず翔の目の前ということを忘れて十代を引き寄せキスした。
下から猛獣の断末魔のような叫び声が聞こえてきたが気にしない。
驚いて目を丸くしてる十代を抱きしめ、耳元でそっとささやいた。

「I'll love you forever」