購買部での野暮用を済ませ、体育館にやって来た覇王と翔。
実技テストは優秀なブルーから始まり、イエロー、最後にレッドで終わる。
何事もブルーが優先されるのだ。
入ってすぐ、モニターに対戦表が映し出されている事に気付いた翔が見に行き、覇王は観客席に向かう。
だが、そこに上がる為の階段に三沢が居て、道を塞いでいた。
爽やかな笑みを浮かべ、三沢は話し掛ける。

「やぁ、十代」
「・・・」
「キミの対戦相手・・・あの万丈目準だってさ」

眉をピクリと動かす覇王。

「それは・・・クロノスの策略か」
「ああ。・・・教諭はキミを本格的に潰したいみたいだ」
「ふん・・・」
「さっき、見たんだが・・・クロノスがレアカードを万丈目に渡していた。アレで万丈目のデッキはかなり強化されたと思うぜ」

三沢の情報に冷たく目を光らす覇王。
元々の無表情な顔付きに、さらに冷酷さが加わる。

「クロノスの手駒となっているのに気付かないのか、あの男は」
「それに即席で作った使い慣れていないデッキでキミに打ち勝とうとしている」
「愚か、としか言いようがないな」

酷薄なその言葉に三沢は苦笑した。

「それでも万丈目はエリートだ。使い慣れていないデッキだろうと、アイツにかかれば8割方の実力は発揮されるんだろうな」
「その8割の力でオレが負けるとでも言うのか」
「まさか。ただの称賛さ。キミが負けるなんて思っちゃいない。でも、気を付けてくれ。そう言いたかっただけだ」

三沢のその言葉に鼻を鳴らす覇王。

それが心配される事に対して恥ずかしがっているように見えて、三沢はクスリと笑った。
覇王はその三沢の笑みに目を細めると階段を下りて、デュエルフィールドへと向かっていく。
もう少し話したかったのに・・・と三沢が思っていると翔が帰って来た。

「あれ?三沢君何でこんなトコにいるの?すっごく邪魔だよ?」
「・・・せめて、どいてくれと言って欲しいな」







覇王が万丈目の待つデュエルフィールドまで来るとクロノスが近くまでやって来た。

「入学試験であれ程の成績を残したキミと、オシリス・レッドの生徒では釣り合いが取れないーノでーす。そこでェ、シニョール万丈目こそが、キミの相手に相応しいと判断致しましたーノです。もちろんキミが勝てば、ラー・イエローに昇格するって事になりまーすノ。ですが、如何ですーノ?遊城十代君。この申し出、受ける気になりますかーノ?」
「受けて立とう。・・・さっさと始めるぞ、万丈目」
「万丈目さん、だ。この前のけりをつけてやる」

二人がデュエルディスクにデッキをセットすると同時にクロノスがフィールドから慌てて出ていく。
体育館中の視線が噂の二人に注目していた。
一方はー年男子一の実力を持つ優秀なブルー生、万丈目準。
もう一方はクロノス教諭を打ち破った規格外のドロップアウトボーイ、遊城十代。
クロノスの企みによって本来ありえなかった対戦が実現し、周りの興奮は高まっていた。

「やっぱり覇お、じゃなくてアニキはすごいっスねー、三沢君」
「十代が勝てば僕と同じ寮になる。入学したてにしてもう・・・。さすがだな」
「それってアニキが・・・イエローになるって事?ボク、そんなの嫌っス・・・」

観客席で二人を眺めている翔と三沢。
三沢の一言に翔は大きな目を震わせる。
その寂しそうな翔の様子に三沢は困ったように眉を寄せた。



「「デュエル!」」

先行は覇王からと決まった。

「ドロー」

最初にドローしたカードはハネクリボー。
覇王の手札に来た事でかハネクリボーは嬉しげにクリクリと鳴いている。
そのハネクリボーによって、覇王の眼光が若干柔らかくなっている事に誰も気付かない。

「E・HEROクレイマンを守備表示で召喚」

守備力2000のモンスターが召喚された事に会場がざわついた。
しかし手札に伏せれるカードがなかったのか覇王がターンエンドすると、万丈目が不敵な笑みを浮かべる。

「雑魚揃いの駄目ヒーローデッキめ。お前の脆さを見せてやる。俺のターン!ドロー!」

万丈目はドローしたカードを見た。

(いきなりクロノス教諭から貰ったレアカード・・・)

「俺は、魔法(マジック)カード『打ち出の小槌』を発動!」
「ほう・・・」
「このカードと手札の中のいらないカードをデッキに戻してシャッフルし、新たにその枚数分ドローする。そして俺は・・・」

万丈目が手札から数枚戻すのを見て翔が驚きの声を上げた。

「えぇっ!?4枚もカードを取り替えるの!?」
「自分の手札からいらないカードを捨て、新たにカードを入れ替える事が出来れば、手札に好カードが入る確率が高くなるんだ」

三沢の説明に翔は分からず目を瞬いた。
そんな高等テクニックが分からないレッド生たちを置き去りに万丈目はさらにカードを発動する。

「しかも『打ち出の小槌』は使い捨てのカードではない。何度でもデッキに戻る事により、何度も俺の手中に入る!再び『打ち出の小槌』発動!『打ち出の小槌』ともう一枚のカードを戻し、再び二枚をドローする!」

手札の入れ替えにより目当てのカードが揃ったのか、万丈目の口の端がつり上がった。

「いでよ!(ヴィ)−タイガー・ジェット!攻撃表示で召喚!!」

虎を模した空飛ぶ機械兵器が唸り声を上げ、フィールドに現れる。

「さらに手札から永続魔法『前線基地』を発動!ターンごとに一度、手札からLV4以下のモンスターを一体、特殊召喚できる。このターン、(ダブル)−ウィング・カタパルトを攻撃表示で特殊召喚!」

永続魔法の発動により、周りが期待に身を乗り出した。

「いでよ、(ダブル)−ウィング・カタパルト!そして、(ヴィ)−タイガー・ジェットと融合!VW(ヴィダブル)−タイガー・カタパルト!!」

攻撃力2000のモンスターが1ターンで召喚された。 覇王はそのモンスターを見て、眉を若干寄せている。
それが胸中で(戦車の上に虎が乗ってるだけで融合と言えるのか)と疑問に思っているからだとは手中のハネクリボーしか知らないだろう。

「驚いたか十代。しかしまだ俺のターンは終わっちゃいない。さらに俺はVW(ヴィダブル)−タイガー・カタパルトの特殊効果を発動!手札を一枚捨て、相手モンスターを攻撃表示に変える!」

万丈目の宣言で守りを固めていたクレイマンが無防備に立ち上がる。
ダメージを与えられる事を確信した万丈目が高笑いを上げ、翔が非難を声に出した。

「ずるいぞ!攻撃力800のクレイマンが攻撃に回ったら・・・!」
「いくぞ十代!VW(ヴィダブル)−タイガー・ミサイル発射!クレイマンを粉砕せよ!!」

虎の肩や戦車からミサイルが発射され、クレイマンを消し飛ばす。
クレイマンの攻撃力の差分が引かれ、覇王のライフが2800となった。

「カードを一枚伏せて、ターン終了!」

愉悦が滲んだ表情でいる万丈目を覇王は一瞥し、呆れの色を瞳に出す。
まだまだ精神が青い・・・。

「オレのターン、ドロー。E・HEROスパークマンを守備表示で召喚。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

守備力1400のスパークマンと伏せカード一枚だけでターンを終わらせた覇王に周りがざわめく。

「あれ・・・?守備表示なんて覇お、じゃなくてアニキらしくない・・・」
「相手が攻撃力2000じゃ、そうするしかないという事だろう」
「で、でも・・・」

覇王ならこんな状況でもなんとか出来るのではないかと翔は思った。
覇王のデュエルを眺める明日香も思う。

(覇王。貴方はこんなもんじゃない筈よね・・・)

「俺のターン!ドロー!(エックス)−ヘッド・キャノンを攻撃表示で召喚。さらに永続魔法『前線基地』の効果により、(ゼット)−メタル・キャタピラーを特殊召喚!」
「やはり、デッキに入っていたか」
(エックス)(ゼット)と続いてあのカードまであるって事は・・・!」
「リバースカードオープン!!俺はこの『リビングデッドの呼び声』の効果により、自分の墓地からモンスターカード一体を復活させる事が出来る!そのモンスターは・・・!」

(ワイ)の名を持つ機械竜が墓地から復活する。
VW(ヴィダブル)−タイガー・カタパルトの効果コストで墓地にいったカードが(ワイ)−ドラゴン・ヘッドだったのだ。
さすがブルー屈指の強さを誇る万丈目・・・、捨てるカードさえ無駄にしない。
覇王の危機に三沢は顔をしかめた。

「いくぞ十代!(エックス)(ワイ)(ゼット)を合体させ、XYZ(エックスワイゼット)−ドラゴン・キャノン!!」

攻撃力2800の砲台のようなモンスターが出来あがった。

「攻撃力2000以上のモンスターがフィールド上に二体・・・。これでもう、十代に勝ち目はないか」

翔の驚く声を聞きながら、三沢は呟いた。

(だが、彼女が覇王ならばきっと・・・)

「まだだ!まだ終わっちゃいない!俺はこのVW(ヴィダブル)−タイガー・カタパルトとXYZ(エックスワイゼット)−ドラゴン・キャノンをさらに合体召喚する」
「・・・」
「これがVWXYZ(ヴィトゥズィ)−ドラゴン・カタパルトキャノンだ!」

合体モンスターたちが分離し、次々に変形合体していく。
頭部と足は(ヴィ)−タイガー・ジェット、胸部は(エックス)−ヘッド・キャノン、腕部は(ゼット)−メタル・キャタピラー、股間部と背中には(ワイ)−ドラゴン・ヘッドの頭と翼、大腿部は(ダブル)−ウィング・カタパルトと組み合っていく。
その姿はまるで巨大戦闘ロボット。
周りはその見た目からそう思ったが、覇王だけは(ゼット)のパーツが(エックス)にただ掴まれているだけで腕としての役割を果たしていないと気付き、これは巨大な移動砲台のようなものだろうと思っていた。

「そしてVWXYZ(ヴィトゥズィ)の特殊能力発動!」

フィールドにいたスパークマンの姿が掻き消える。
守る者がいなくなった覇王の姿を万丈目は嗤った。

「残念だったな、十代。VWXYZ(ヴィトゥズィ)は1ターンに一度だけ、相手の場のカードを除外する事が出来るのさ。フフ・・・。たっぷりと味わうんだなぁ・・・、持たざる者の哀しさを」

万丈目の決め台詞に特別席でデュエルを眺めていたクロノスが沸き立つ。

「超気持ちイイーッ!いよいよドロップアウトボーイのドロップする瞬間が見れますーノ!」
「いけぇっ!!VWXY(ヴィトゥズィ)Z!プレイヤーにダイレクトアタック!」

攻撃力3000のダイレクトアタックが決まり、勝敗が決まるかと思われたその時、覇王の冷たい声が静かに響いた。

「相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを発動する事が出来る。(トラップ)カード『ヒーロー見参』」

覇王の場に伏せられていたカードが正体を現す。
ダーク・ヒーロー ゾンバイアが描かれているそのカードを見てクロノスと万丈目が訝しげにカード名を呟いた。

「『ヒーロー見参』!?」
「このカードにより、相手に選ばせたカードがモンスターカードであった場合、それをこの場に召喚する事が出来る。選ぶがいい。万丈目」
「万丈目さんだ!一番右だ!」
「・・・運が悪い奴だ。オレはこのカード、E・HEROバーストレディを守備表示で特殊召喚」

覇王の場に現れた守備モンスターにすかさず万丈目は反応する。

「守備表示にはさせん!VWXYZ(ヴィトゥズィ)が攻撃する時、モンスターの表示形式は俺の自由だ!VWXYZ(ヴィトゥズィ)−アルティメット・デストラクション!!バーストレディを攻撃!」

VWXYZ(ヴィトゥズィ)の胸部の銃身がバーストレディに狙いを定め、破壊光線を撃ち出した。
その攻撃により攻撃力1200のバーストレディは倒され、差分の1800が覇王のライフから引かれる。

「ターンエンドだ。これでまた丸裸。一体のモンスターもお前の場には居やしないぜぇ」

残りライフ1000であるのに、未だ冷静さを失わない覇王に万丈目は挑発した。
覇王の金の瞳と万丈目の目が合う。
万丈目はその時、気付いた。
十代の目は・・・金だったか?
初めてデュエルした時と明らかに様子が違う事に今更ながら疑問に感じる万丈目。
あの時はいちいちモンスターの攻撃を受けた時リアルな悲鳴を上げていなかったか?
ずっと楽しげに笑ってデュエルしていなかったか?
何か、おかしい。
入学テスト時、クロノスが覇王に対して感じた戦慄が今、万丈目に襲い掛かろうとしていた。

「オレは、十代のデッキを信じる。十代の為に、共に最後まで戦ってくれるモンスターがこの中にいる限り、オレは戦い続けよう・・・」

覇王がゆっくりとデッキからカードをドローする。

(これは・・・)

ドローしたカードを見て、覇王の脳裏に購買部であった出来事が浮かんだ。