第5話『闇のデーモンデッキ』



皆が寝静まる深夜。
レッド寮の食堂では三人だけの怪談大会が開かれていた。
その三人とは十代、翔、隼人。
翔は怖がりで臆病な所があるが、実は人を怖がらせる話をするのが大好きという面を持っており、満を持してこの大会は開かれる事となった。
隼人は学校に行かず昼は寝ているので、夜は暇だったのだろう。
十代はいつも通り外に出かけようとしていたが、怪談話なんて聞いた事がない十代には興味津々な内容だったので、すぐに飛び付いた。
レッド寮の部屋だと壁が薄いから迷惑だろうという事で、食堂で開催。
自分たちだけの寂れたその空間。
椅子は軋み、隙間風が時たま襲い、周りは真っ暗。
ぼろい食卓の上に置かれた一本の蝋燭だけが手元をぼんやりと照らし、雰囲気作りはバッチリである。
ルールはデュエリストらしくデッキからドローし、その引いたモンスターカードのレベルに比例した怖さの怪談話をする事。
最初の話は隼人から始まった。
引いたカードはレベル5の『シャドウ・グール』。
翔と十代はどんな怪談話を披露してくれるのだろうとワクワクする。
だが、なんと隼人はその大きな体に似合わず肝っ玉の小さい男で、自分の話す内容に恐怖して続きが話せなくなり、うやむやのうちに終わってしまった。
怖がりの翔も自分より酷い怯えように冷静になるしかない。
白けた表情をしている十代を見て、翔はこれはボクの出番だと意気込み、カードをドローした。
そのカードをチラリと翔は見て、話す怪談話を決める。
口を開いた翔は噂話から切り出した。
だんだんと物語の核心に迫る翔の絶妙な口上に、二人は身を乗り出して聞き入っていた。

「・・・この島の北の断崖に、その洞窟は・・・あるんス」
「おう。それで?」
「うん」

十代と隼人の頷きに、翔はさぁ、ここからだと思い、さっきよりもひそめた声でラストスパートに出だした。

「洞窟の奥には小さな入り江があって・・・夜になると天井から月明かりが射し込むんです」
「うんうん」
「それで、入り江の底を覗き込むと・・・水の底に自分の欲しいカードが映って・・・それに手を伸ばすと・・・だぢま゛ぢ海に引ぎ込まれちゃうそうっスぅぅぅぅ!!!」

溜めに溜め、翔が恐怖に引き攣った声を出す。
身振り手振りで呼吸が出来ずもがき苦しむ様子を表している翔を見て、十代は面白そうに目を輝かせた。

「行ってみてぇ、その入り江!」
「あ゛・・・、アニキ違うでしょお?」

望んだ反応と違う返しをされ、翔は拍子抜けた声を出した。

「今は怖い話をしてんだからぁ〜」

頬杖をついて呆れたように自分を見る翔。
そしてビビりにビビりまくって椅子までなぎ倒して震えている隼人。
そんな二人を見て十代は小首を傾げた。

「うーん」
「まぁ、レベル4の話だからアニキが怖がらないのも分かるっスけど」

そう言って翔は自分が引いた『地縛霊(アース・バウンド・スピリット)』を机の上に置く。
それを見た十代は次は自分だなとカードをドローする。

「お、『キラー・スネーク』か」
「ちぇ。レベル1かぁ。ネタが楽でいいな。怪談初体験のアニキには最高のカードだ」

こんな時でもドローが冴えている十代に翔は半笑いだ。
十代はカードを机の上に置き、話す内容を考える。

「そうだな・・・レベル1の話は、うん。そういやちっちゃい頃はさ、モンスターとオレ、話せたらしいぜ。童話に出てくる妖精みたいにさ」
「「へぇ・・・」」
「父さんが与えてくれたモンスターカードといつも話してたって。子供が知らないような事もオレが話すからソイツは確かに居て、オレに話し掛けているんだろうって言ってた」
「アニキは覚えてないの?」
「全然」
「なんだぁ」

不思議な話に翔と隼人は食い付いたが、肝心の十代はさっぱり覚えていないようだった。
まぁ、子供の頃の話だしね・・・と翔が締めくくると、十代は思い出したかのように呟きだした。

「でもなぁ最近・・・声が聞こえる事があるんだよなぁ・・・」

知らない間に紛れ込んでいたあのカードを思い出しながら十代は首を捻る。
その時、十代の後ろからふいに大きな影が現れた。

「ほっほぅ!皆さーん、何してるんですかにゃー?」
「っ!ビックリしたぁ!驚かさないで下さいよ、大徳寺せんせぇ・・・」

その声に十代は後ろに首を傾け、大徳寺先生じゃんと笑う。
だが翔や隼人はいきなりの出現に度肝を抜かされ、椅子から転げ落ちた。
そして隼人はその巨体に似合わず素早く自分が倒した机の影に隠れ、ブルブルと震えている。
翔はなんとか平常心を取り戻し、にっこりと自分を見つめる大徳寺に説明を始めた。

「先生、今ね、引いたカードのレベル分だけ怖い話するってゲームやってるんス」
「それは面白そうですにゃ〜。どれどれ、私ーもっ」

大徳寺が引いたカードは『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』。
十代と翔はそのカードに目を丸くする。

「で、出たーっ。レベル12!」
「とっておきのをお願いします」
「ホッホッホッホ。そう言えばぁ、この島の奥には使われていない寮があるの、御存じですかにゃ?」

明後日の方向を見ながら話し始めた大徳寺を十代は不思議そうに見つめた。

「使われてない寮?」
「ええ。昔この学園の特待生たちの寮だったらしいのですが、その寮では、何人もの生徒が行方不明になってるそうだにゃ〜・・・」

大徳寺のその話に翔はゴクリと唾を飲み込んだ。

「ほ・・・、本当スか?」
「何でもその寮では、闇のゲームに関する研究をしていたらしいのにゃ」
「や、闇のゲーム!?」

恐ろしい雰囲気を放つその言葉に興味を持ったのか、隼人が机の影から顔を出した。
大徳寺は闇のゲームとは確か・・・と覚えている事を話す。

「伝説のアイテムによって発動する恐ろしいゲームだって話ですにゃー」
「そんなの本当に研究していたんスか?」
「ンホッホッホゥ!真実は私も知らないのにゃ。私がこの学園に来た時には、あの寮は立ち入り禁止になってたにゃ」

話が終わった瞬間、タイミングよく大徳寺が抱えていたファラオが欠伸をした。
ファラオを一撫でし、大徳寺は椅子から立ち上がる。

「ん。そろそろ部屋に戻る時間だにゃ。では、おやすみ」
「「はーい」」

立ち去っていく大徳寺を見送って、翔は不安げに眉を寄せた。

「やだなぁ。本当にこの島にそんな場所があるのかな?」

翔のその言葉に十代はにっこりと笑って身を乗り出す。

「オレ、見た事あるぜ。その寮」
「え!?」
「ほ、本当かぁ、十代?」
「入った事はねぇけどな。中は暗いだろうから今度懐中電灯持って探検しようと思ってたんだ」
「へぇー。本当にあるんだ・・・」
「だからさ、明日の晩行ってみようぜ!」
「え゛ぇっ」
「こ、怖いけど、俺も行きたい」
「うぅ!?」

翔は怖い話は大好きだが、怖い体験をしたい訳じゃない。
だが、引き篭もりの隼人は珍しく乗り気だし、尊敬するアニキ分の十代が自分を誘っているのだ。
断れる訳がない。

「よぉし!けってー!」
「決定ー!」
「ぉぉ・・・」

翔が諦めたように小さく賛同の声を上げている時、その会話を盗み聞きしている存在がいた。
食堂の外の壁に張り付き、今日も憎きドロップアウトボーイをあの手この手で苦しめてやろうと様子を窺っているのはクロノス・デ・メディチ。
復讐の為なら寝る時間すら惜しまないその根性には讃嘆の念を送るしかない。

「フッフフフフフフ。ブラーボォ。闇のゲーム、その手がありましたーノネェ」
(噂話を利用して、ドロップアウトボーイィが消えるーのなーら、誰にとっても問題ないーノネ!ヌッホッホッホッホッホ!ヌハハ!)

良い事を思い付いたとシメシメ笑うクロノスはさっそく十代退学の為の仕掛けを工作しようとその場を離れた。






次の日の朝。
今回、十代が外に出かけなかったので時間があった覇王は寮生たちの為に料理を作り、翔と共に学校に向かい、錬金術の授業を受けていた。
遅くまで起きていた翔は眠気で崩れ落ちそうになっていたが、横に座る覇王が冷たい眼光で見遣るので根性で起きている。
そんな覇王に呆れられないよう必死の翔を、大徳寺は授業の説明をしながらニコニコと見ていた。

「ンッフッフフフフ。よく勉強するがいいノーネ。どうせこれーが最後ーの学園生活ーになるノーです。トトカルーチョ」

教室の外では、薄く開けたドアの隙間から覇王を観察しているクロノスがほくそ笑んでいた。
隠しきれない笑いが静かな廊下に響いている。
人より気配に鋭敏な覇王はそんなクロノスの様子に気が付いていた。

(また何か良からぬ事を・・・。こりない男だ)

昨日の時点で覇王はクロノスがまた何か企んでいる事を分かっていた。
だからと言って覇王は対策を講じようとは思わない。
覇王は十代の為に行動しているが、過保護な訳ではないのだ。
何もかもから守っていては十代の人格に悪影響を与えてしまう。
危険に立ち向かうだけの精神と行動力を身に付ける為には、あえて見て見ぬふりをしなければならない。
現に覇王は十代が夜遅くまで出歩こうと、森で道に迷おうと、泉に落ちようと、見知らぬ物を口にしようと全て放っている。
命の危険にでも遭わない限り、覇王は十代を好きにさせているのだ。
そのおかげでだんだんと十代に危機回避能力が育っている。
今回のクロノスの企み事も、きっと自分でなんとか出来るだろう。
覇王がやる事は、十代が十代らしく生きられるようにサポートするだけ。
十代が本来得られる筈だった生活を・・・失ってしまった大切な時間を、十代のその手へ。
ただそれだけを一心に。
それが普通に生きられた十代の人生を壊してしまった覇王の贖罪なのだ。



いつか消えるその時まで。
覇王がいなくなっても生きていけるように。