その日の夜、クロノスは灯台で待ち合わせをしていた謎の男と取引を交わした。
十代退学計画の為、自身の給料3ヶ月分と引き換えにする事を約束するクロノス。
大金を払うなんて、よほど十代の事が気に食わない域に達していたようだ。
怪しげな霧を周囲に漂わせた男は目的遂行の為に動き、そしてクロノスがほくそ笑んでいた頃・・・。
約束通り十代たちは深夜の探検へと向かっていた。
向かう先にある廃寮はDAと火山の間の森の中にあるらしい。
翔と隼人は整備された道しか普段歩かないので、懐中電灯で足元を照らしながらおっかなびっくり歩いている。
だが森の中を危なげなく歩く十代の姿はまるで野生児のようで、後ろをついて歩く翔と隼人の心の中は感心と呆れが半々だった。
この分では月明かりだけで十代は歩けそうである。
まだまだサバイバル生活に慣れていない二人には真似出来そうにもなかった。
「しかし、隼人君が来たがるなんて意外。いつもは授業に出るのも面倒くさがるのにね」
「別に俺・・・出不精でも勉強が嫌いな訳でもないよ。ただぁ・・・」
「ただ?」
「嫌なんだぁ。デュエルで勝つ事だけの授業が」
「勝つ方法以外にデュエルで勉強する事なんてあるの?」
「・・・んっと、あるよ。きっと。例えばぁ・・・闇のゲームとか」
隼人のその言葉に十代はニシシと笑う。
「闇のゲームね・・・。やってみてぇなぁ」
そしてしばらく歩き、森を抜け、着いた先にあった廃寮を見て、翔と隼人は予想以上に廃れた建物に口を引き攣らせた。
元はゲートがあったであろう場所にはkeep outと書かれた札が下がった縄が道を封じている。
隼人が懐中電灯でゲート付近を照らすと、そこには真っ赤なバラが一輪置かれていた。
「この花は?」
「えぇぇ、怖そう・・・。アニキ、やっぱりやめましょうよ」
「何言ってんだよ。ここまで来てやめられるかよ」
翔と隼人が花に気を取られて騒いでいると、近くでパキッと何かが折れる乾いた音が聞こえた。
「「で、出たぁぁあぁぁ!!」」
驚いた翔と隼人はお互いにしがみ付き、叫び声を上げる。
そんな二人を尻目に、十代は無造作に音が鳴った場所へ灯りを向けた。
「明日香」
「え、明日香さん?何で明日香さんがここに・・・」
十代が灯りを向けた先には驚いた表情をした明日香がいた。
翔もそれに気付いて、不思議そうに目を瞬かせる。
「それはこっちのセリフよ。あなたたちこそ何してるの!」
怒った顔をする明日香に十代はニッと笑う。
「ちょいとオレたちは夜の探検にね」
「あなたたち知らないの?ここで何人もの生徒が行方不明なってるって・・・」
「そんな迷信信じないね」
「この寮の話は本当よ・・・。遊び半分で来る場所じゃない!それにここは立ち入り禁止の筈。学校に知られたら騒ぎになるわ」
「そんなの怖くて探検出来ねぇぜ」
のらりくらりと明日香の忠告を聞き流す十代に明日香は眦を吊り上げる。
「真剣に聞きなさい!」
十代はそれに対し不機嫌そうに顔をしかめた。
「・・・んだよ。やけに絡むな・・・。どうせお前はここにバラを置きに来たんだろ。オレたちに構うな」
「っ!?どうしてその事を・・・」
「この前、ここを見つけた時にお前が泣きそうな顔でバラ置いてんの見たから」
十代のその言葉に明日香はハッと顔に手を当てる。
手を震わせ俯いた明日香はそのまま背を向けた。
「・・・勝手にすればいいわ」
「明日香さん・・・」
「ここで消えた生徒の中には、私の兄もいるの・・・」
「「え?」」
明日香の告げた真実に三人は目を見開く。
(そうか。明日香がここでバラを供えていたのは・・・)
明日香はそのまま立ち去った。
翔は不安げに十代へと身を寄せる。
「アニキ・・・今、明日香さんが言った事・・・。ボク、ここの噂は作り話だって・・・」
「まぁ、入ってみりゃ分かるさ。行くぞ」
「う、うん」
気にした様子もない十代は隼人を連れ、廃寮へと足を踏み入れていく。
翔は怖くて、どうしても縄から先に立ち入れない。
そんな翔に十代はからかうように声を掛けた。
「そこで待ってるかぁ?」
「えーっ!?う、ぅ・・・待ってくれよ!ボクも行くよぉぉ!!」
翔は慌てて十代たちの後を追って中に入っていく。
その一部始終を、立ち去ったと思われていた明日香が木陰から見ていた。
何とも言えない表情でしばらく見つめた後、明日香はその場を離れる為に後ろを振り返る。
「ぁっ・・・」
明日香の後ろにはいつ間に居たのか、あの灯台に居た黒いコートを羽織った謎の大男が気配もなく立っていた。
ジッと自分を見つめるシルバーの仮面を着けた大男に明日香は声も出せない程驚く。
ニヤリと笑った大男は明日香を一瞬で昏倒させ、腕に抱くと、十代たちが入った場所とは違う所から廃寮へと入っていった。
その頃十代たちは明日香がどうなっているのか知らず、無邪気に中を探索していた。
「ホコリは被ってるけどオシリス・レッドの寮とは大違いだなー。いっそ、オレたちここ引っ越さねぇか?」
「えぇー・・・」
「やめてよ、アニキ・・・。ボクは絶対嫌だからねっ!」
「俺も・・・」
自分の発言にドン引きされ、十代は首を傾げる。
掃除をすれば快適だと思うんだけどなーと考えながら辺りを照らしていると、壁に掛けられていた壁画のようなモノを見つけた。
ヒエログリフで書かれたそれは読めるものではなかったが、なんとなく大徳寺が言っていた闇のゲームの研究とはこれの事ではないだろうかと思わせる。
「ほ、本当にここで闇のゲームを?」
「そ、そんなの迷信だってばぁ!!」
翔と隼人がギャーギャー騒いでいる間、十代は何故か壁画の文字を読めたので見ていった。
「ふーん。伝説のアイテム『千年アイテム』ってのは7つあったんだー。お?」
千年パズルに千年リング、千年眼、千年ロッド、千年タウク、千年秤、千年錠と読み進めていくと、ふと灯りに反射して光るモノに気が付く十代。
それは写真立てのようだった。
手に取りホコリを払うと、何かサインが書いてある
「FU・・・BU・・・KI・・・10・・・JOIN?」
これってもしかして・・・と十代が思ったその瞬間。
――――――キャアァァァァァァァァ・・・!!
絹を裂くような女の悲鳴が廃寮中に響いた。
見知った女のその声に三人は目を合わせる。
「アニキ!今の声って・・・!」
「行こう!」
十代は奥へと走り出し、翔と隼人もその後を追う。
懐中電灯でくまなく探していると下の階層にカードが落ちているのが見えた。
階段を下り、急いで確認してみるとそれは明日香のモンスターカード・・・。
「あ!」
「これは・・・明日香のエトワール・サイバー!」
「何かを引きずった跡があっちへ・・・!」
「明日香さん!」
暖炉の方向に向かって真新しい形跡が残されていた。
十代たちは暖炉の裏に隠し通路がある事に気付く。
急いで中に入ってみると、まるでそこは坑道のような道。
三人は何故寮にこんな隠し通路があるのか、その追求は後にし、明日香の名を呼びながら奥へと走る。
「明日香ー!」
辿り着いた広い場所は室内にも関わらず霧がかかっていて視界が悪かった。
しかし、目を凝らすと奥の壁に立て掛けられた不気味な棺に気絶した明日香がいるのが分かった。
十代は近付こうとしたが、突然低い笑い声が耳に届き、立ち止まる。
「この者の魂はぁ・・・もはや深き闇に沈んでいるぅ・・・」
「誰だ!?」
十代の誰何の声に霧の中からあの大男が怪しく浮き出した。
「ようこそ、遊城十代」
「アニキ・・・!」
異様な雰囲気を放つ大男に翔は慄き、十代を頼るように呼ぶ。
何故アイツはアニキの名を知ってるんだろうと翔の頭の中は疑問と恐怖でいっぱいだ。
「我が名はタイタン。私は闇のゲームを操る、闇のデュエリスト・・・」
「闇のゲーム!?」
「ふ、ふざけないでよ!闇のゲームなんてあるわけない!」
闇のゲームという言葉にビビり、慌てて明日香さんをどうしたんだと叫ぶ翔と隼人。
闇のゲームを否定する二人にタイタンは悠然と答える。
「フフン・・・。試してみれば分かるだろうよ、小僧。ここは何人も踏み入ってはならぬ禁断の領域。我はその誓いを破る者に制裁を下す」
「ここでいなくなった人たちもお前のせいって事か?なぁなぁ!闇のゲームってやっぱすげーのか!?」
怯える二人とは違い、興味津々な様子で尋ねる十代。
ワクワクしたその表情から何も恐れの感情は見えなかった。
闇のゲームがやってみたいとここに来るまでに言っていた十代の言葉に嘘はなかった。
恐ろしいと言われるゲームでも十代にとっては新鮮で面白い事なのだ。
目先の事に意識を移した十代の中には明日香の事はもうない。
「私に闇のゲームで勝てるならこの女を返してやろう、遊城十代」
「闇のゲーム!くぅーッ!望むところだ!」
「・・・後悔するなよ、小僧」
隼人のリュックからデュエルディスクを取り出し、喜々として腕に取り付ける十代を訝しそうにタイタンは見た。
構えてこちらを見るその顔はキラキラと楽しそうに輝いて見えた。
「「デュエル!」」
「先手は取らせてもらおう。ドロー」
いつもとは違う相手の反応にタイタンは得体の知れなさを十代に感じたが、頭を切り替え、先行ドロー。
ドローしたカードを手札に加え、攻撃力900のモンスター、インフェルノクインデーモンを召喚する。
デーモンと名の付くモンスターの出現に十代はあるデッキ内容を思い出した。
「デーモンデッキか!」
「このカードがフィールドに存在する時、デーモンと名の付いたモンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップする」
「え!?」
「って事は!」
翔と隼人の驚きの視線の前で1900へと攻撃力が上がる悪魔の女王。
「確かにデーモンデッキは強力なデッキだけどさ、場のモンスターを維持する為にスタンバイ・フェイズごとにでっかい代償を払うんじゃなかったっけ?」
十代の中ではデーモンデッキは一々コストを支払わなければいけないというスリリングなデッキに位置付けられていた。
なかなか面白くて十代も扱った事はあるのだが、メインデッキがヒーローだと決まってるので、そこまで使ってはいない。
そんな十代の疑問にタイタンは嗤う。
「フフフ・・・代償だと?そんなモノは必要ないのだよ、このカードの前ではなぁ。フィールド魔法発動!」
タイタンがデュエルディスクにカードを放り込むと薄暗かった周囲を煌々と照らす程眩い光が放たれた。
三人は腕で顔を覆い、光に耐える。
光が治まるとその場の光景がガラリと変わっていた。
「何だ、ここは・・・っ?」
怖気の立つような骸骨竜や悪魔の骨が十代たちを囲んでいる。
床も壁もモニュメントも赤黒く、まるで何かの内臓の中にでもいるような気分にさせた。
「さしずめ・・・地獄の一丁目とでも言っておこうか。私はフィールド魔法『
「パンディモニウム?」
「そう。このカードによりデーモンデッキを維持するコストは発生せず、デーモンと名の付いたモンスターは戦闘以外で破壊された時、転生する能力を得るのだ。さぁ、お前のターンだ。おぉっとこの娘が気になるようなら、お前の目に入らないようにしてやろう」
タイタンの合図で明日香の入った棺が自動的に閉まり、その棺を引き込んでいくフィールドの仕掛けに三人は目を見開く。
視界にあるうちはまだ助け出せる気がして安心できたのに見えなくなってしまった事で翔と隼人は焦った。
さらに十代たちの焦燥感を煽ろうとする、優しさに見せ掛けた姑息な方法を取るタイタンに二人は憤りを隠せない。
しかし、十代はというと仕掛けに興奮して目をキラキラと輝かせていた。
「おお!すげー!」
「汚いぞ!」
「卑怯者!」
「フッ。何とでも言え。これが闇のゲームだぁ・・・。何ならお前たちも消してやろうか!」
タイタンの脅しに翔と隼人はヒィッと引き攣った声を上げる。
「へへっ!お前面白いな」
十代はタイタンの脅しを冗談だと思っているのか危機感を感じられないワクワクとした表情で笑った。
(攻撃力1900に勝てるモンスターはオレの手札にはない。だが!)
自身の手札をじっくりと見て、十代は次の手を思い付く。
「オレはE・HEROフェザーマンを攻撃表示で召喚!そして伏せカードを2枚セット!ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー。ジェノサイドキングデーモンを新たに召喚。ジェノサイドキングデーモンはぁ、自分のフィールドにデーモンと名の付いたモンスターが存在しなければ召喚出来ない。だが私の場にはインフェルノクインデーモンがいる。インフェルノクインデーモンの特殊効果により、ジェノサイドキングデーモンの攻撃力アップぅ!」
攻撃力2000のジェノサイドキングデーモンがクイーンによって力を高められ、3000の強モンスターへと変わった。
十代は目を丸くして言う。
「攻撃力3000だと!?」
「喰らうがいい!我がデーモンたちの怒りを!ジェノサイドキングデーモンよ、フェザーマンに攻撃ぃッ。炸裂!五臓六腑ぅッ!!」
自分のハラワタを蟲に変えてぶちまけ攻撃するというおぞましさ。
まさに炸裂五臓六腑という技名そのままだ。
それを見た十代はさすがに嫌そうな顔をして、回避する為に伏せカードを発動させる。
「甘いぜ!
「アニキ!」
「上手いぞぉ!」
十代のテクニックに翔と隼人は賞賛の声を上げた。
しかしタイタンは不敵に笑い、動じていない。
「フフフ。お前が雑魚モンスターをエサに
「何っ?」
「そんな小細工は私のデーモンデッキには通用しない。異次元トンネルの
変化したフィールドの真ん中には溶岩のようなドロドロとした液体が溜まった穴があった。
そこから1〜6の数字が記されたビリヤードで使うような色とりどりのボールが飛び出し、タイタンの顔近くで留まる。
「な・・・、何だ?」
「ジェノサイドキングデーモンの特殊能力。それは相手の効果対象になった時、サイコロを一度振り、2か5が出た場合、その効果を無効にし破壊する。このデュエルでは、サイコロの代わりにこのルーレットを使用する。さぁ地獄のルーレットよ、奴の運命を乗せ、廻り始めよぉぅ」
一つのボールから炎が噴き出し、次々に別のボールへとその炎が移動していく。
「2か5が出れば
「確率は3分の1・・・!」
翔と隼人が固唾を飲んで見守るその目の前で炎は止まった。
「ルーレットの目は2!よってジェノサイドキングデーモンの特殊能力発動!異次元トンネルは破壊!炸裂!五臓六腑ぅッ!!」
当たるなという願いは空しく叶わず、タイタンの攻撃は通ってしまう。
羽虫はフェザーマンの体に群がり、その身を食い散らかしていった。
これで十代のLPは2000。
凄惨なヒーローの倒され方に十代は惜しむ声を上げる。
「くぅっ、フェザーマン!だが、
「んぅ?」
「このカードはモンスターが破壊された時、デッキか手札からE・HEROと名の付くモンスターを特殊召喚する!いでよ、E・HEROクレイマン!守備表示だ!」
救援の信号に守備力2000のヒーローが駆けつけた。
これでクイーンの攻撃は通らない。
「いよっしゃぁぁっ!!」
「なんとか追撃をしのいだんだぞぉ」
どうにかこのバトルフェイズをやり過ごせた事に翔と隼人の二人は喝采する。
「くっくっく。それはどうかなぁ?」
「?」
タイタンは不穏な呟きを口に出すと、何やら金色の物体を取り出し目の前に構えた。
十代が訝しげにその物体を見つめると、突然眩い光がそこから放たれる。
いきなりの事だったので、十代や後ろの二人も直接光を見てしまい、しばらく目が見えなくなった。
かすむ視界に十代は何が起こったのかと辺りを見回す。
その時、メガネのおかげかいち早く視界が回復した翔が十代の体を見て悲鳴を上げた。
「ひ!」
「消えていくぅ。お前の体が。ライフポイントに従い、徐々に消えるぅ・・・」
「十代!?」
「アニキ!!」
「オレの体が・・・!」
十代は自分の体が部分的に消えているのに気付き、驚く。
そんな十代の状態に翔と隼人は心配して声を掛けた。
「フフフ・・・。小僧、言っただろう。既に闇のゲームは始まっているとなぁ」
「これが、闇のゲーム?」
「たち込めてきた、黒い霧が、重く黒い霧が、貴様たちを包む・・・。苦しいだろう・・・?」
地面に渦巻いていた霧が十代たちの体に纏わり付く。
ズンと体が重くなり、息を吸うのがとても苦しい。
「う、うぅぅ」
「何だぁ・・・?この息苦しさは・・・ゴホ・・・」
「これが闇のゲームのプレッシャーだ。貴様たちの足はもう動かず、誰もこのゲームから逃げる事は出来なぁい・・・」
「ホントだ・・・。足も動かない・・・っ」
「フフフ。もがけ。苦しめ。だが、その苦しみさえ懐かしいと思う時が来る。闇のゲームの敗者に待ち受けるモノは・・・永遠の闇だからなぁ」
「ケホ・・・これが本当に闇のゲームだっていう証拠はあるのか?闇のゲームをするにはあるアイテムが必要だって聞いた事あるぜ。お前はそれを・・・」
十代は一歩踏み出し、粘り付くようなタイタンの声を振り払うように質問する。
そんな十代にタイタンはこれ見よがしに手にぶら提げた物体を揺らした。
「見よ。これこそが伝説のアイテム、千年パズル。これが闇のゲームだという証」
「うわ・・・」
「あれが千年アイテム・・・?」
ウジャト眼が真ん中にある妖しげな金の三角錐。
相変わらず目に優しくない光を放ち、こちらの恐怖心を煽ってくる。
翔と隼人は紛れもない証拠に完全に怯えてしまった。
「私のターンは終了だ。さ、小僧。貴様のターンだ」
(くそっ。本当にこれが闇のゲーム・・・。よく分かんないけどめちゃくちゃヤバい気がする。けど!)
いつも体はだるいが今回はそれ以上だ。
しかもダメージを受ける度に体が消えていくというプレッシャー。
リアルに感じる命の危険は通常のディスクデュエルよりもヒシヒシと感じた。
しかし十代は思わず微笑んでしまう。
(笑ってやがる。何故だ?)
追い詰められた状況の筈なのに笑う子供にタイタンはこれまでの相手とは何かが違う事に気付く。
疑問に思うタイタンは十代をただ見つめた。
「こんなゾクゾクするデュエルは初めてだ!燃えてきたぜ!いくぞ!オレのターン!
十代はデッキからカードを二枚ドローし手札に加える。
そして手札から融合を発動。
「手札のE・HEROスパークマンと場のクレイマンを融合!E・HEROサンダー・ジャイアントを召喚する!」
攻撃力2400の融合モンスター、サンダー・ジャイアントが場に特殊召喚された。
「サンダー・ジャイアントの特殊能力発動!元々の攻撃力が自分より低いモンスターを破壊する事が出来る!いけェ!サンダー・ジャイアント!ヴェイパー・スパーク!!」
サンダー・ジャイアントの手から放たれた稲妻がジェノサイドキングデーモンへと向かっていく。
その光景にタイタンは余裕気に笑うと、ジェノサイドキングデーモンの力を発動し、一時停止させた。
「フフハハハ・・・」
「何!?」
「再びジェノサイドキングデーモンの特殊能力発動。廻れ!運命のルーレットよ!」
「攻撃が通る確率は3分の2!今度こそ!」
だが止まった数字は5。
またしても成功した事に十代は驚きの声を上げた。
「何だと?」
「フハハ!再び運命のルーレットは私に味方した。これで破壊されるのは、小僧!貴様のモンスターだ!」
「うぅぅぅうう・・・。くそっ。サンダー・ジャイアントが呆気なくやられるなんて」
「アニキ・・・!」
「デーモンデッキ。真の恐怖はそのカウンター能力だ。振りかかる効果を無効にするだけじゃなく、特殊能力を発動したカードを破壊する力。ルーレットの目が当たるならこんな恐ろしいデッキはない。どうするつもりだ?十代!」
隼人はこの不利な状況に気付き、畏れ慄いた。
翔も隼人の言葉に気付いて顔を青くする。
どうにかして勝たなければ、自分たち、ましてや明日香を助けられない。
しかし強力な能力をどう対処すればタイタンに勝てるのか二人には思い付かない。
頼りの十代はデュエルの衝撃に体をふらつかせている。
このままデュエルを続行できるのか?
「んぅ・・・ッ」
「さぁ、貴様の場のモンスターは全て消滅したぞ。フフフ!フハハハハハハハ!フッハッハッハッハ!!」
十代のヒーローは消滅し、ガラ空き。
絶対絶命のピンチ。
呻き声を上げる十代にタイタンは勝利を確信し、大きな高笑いをその場に響かせるのだった・・・。