第6話『ハネクリボーの奇蹟』



「フフフフ・・・」
「うぅ・・・ハァ・・・ッ」

タイタンは荒い息を吐く十代を見て嗤う。
いつも相手にするデュエリストとは少々毛色が変わっていたが、ここまで自分の思う通りにシナリオは進んでいた。余裕の笑みを浮かべたタイタンは自分の勝利を確信する。
もうすぐ倒れ伏す無様な姿を見れる。
何者も自分には勝てないのだ。

「フフフ。これでお前の場のモンスターはぁ、全て消えたぁ」
「くぅ、くっ!まるで手が出ない・・・。オレは魔法(マジック)カード『悪夢の蜃気楼』を発動!さらに二枚のカードを伏せて、ターンを終了する」
「アニキ・・・」
「がんばれ、遊城十代・・・」

手札にモンスターがなかったのか、十代は何も召喚せずターンを終わらせた。
タイタンの場には二体のモンスターがいる。
十代の残りLPは2000だ。
翔は絶体絶命のピンチに心配そうに声を震わせ、隼人は十代の伏せカードを信じ、小さく応援する。

「結局この2ターン、お前が私に与えたダメージは0になる。そろそろ決着を着けようではないかぁ・・・」

タイタンは荒い息を吐く十代を見て悠然と笑い、カードをドローする。

「私のターン」

スタンバイフェイズになった瞬間、十代は永続魔法の発動を宣言した。

「『悪夢の蜃気楼』の効果発動!オレは手札が4枚になるようカードを引くぜ!」
「構わんさ!今更手札が増えようと貴様のライフはこの攻撃で尽きてしまうのだからなぁ!ジェノサイドキングデーモンのぉ、ダイレクトアタック!炸裂!五臓六腑ぅ!」
「させるか!(トラップ)発動!『聖なるバリア−ミラー・フォース−』!こいつで攻撃表示の敵モンスターを全滅!」
「上手いぞ十代!これなら、ジェノサイドキングデーモンの効果は発動しない!」

そう・・・ジェノサイドキングデーモンの効果は自身だけを対象にした効果を無効にするというモノ。
攻撃表示モンスター全体を対象にする効果には何も出来ない。
キングとクイーンは聖なる壁に攻撃を跳ね返され、自滅していった。

「んくっ!く・・・しぶとい!」
「迂闊な攻撃だったなぁ!」
「だが私の勝利に変わりはない。私はデスルーク・デーモンの特殊能力を手札から発動。ジェノサイドキングデーモンが破壊され、墓地に送られた時、このカードを手札から捨てる事でぇ・・・ジェノサイドキングデーモンをぉ、復活させる!」
「何ぃッ?」
「さらにフィールド魔法『万魔殿』(パンディモニウム)の効果発動ぉ!この魔巣窟にいる限り、デーモンと名の付くモンスターが、バトル以外で破壊され墓地に送られた時、そのカードのレベル未満のデーモンモンスターを、デッキから手札に加える!」

万魔殿(パンディモニウム)−悪魔の巣窟(そうくつ)』の二つ目の効果が発動条件を満たした。
タイタンがデッキからサーチしたのはレベル3以下のモンスターだろう。
それがまたデスルーク・デーモンだった場合、キングの復活ループは続く。

「未だ、バトルフェイズは続行中だ。したがって甦ったジェノサイドキングデーモンには、攻撃が許されるのだ。いけ!ジェノサイドキングデーモン!」
「あぁ!!」
「まずい!ここまでかぁ!」

クイーンがいない今、キングの攻撃力は2000だ。
されど、十代のLPも2000。これが決まれば十代の敗北が決まる。
翔と隼人は嘆きの悲鳴を上げた。
だが十代はニヤリと笑い、伏せていたカードを発動させる。

「速攻魔法『非常食』!自分のフィールド上の、魔法(マジック)(トラップ)を一枚破壊する事で、1000ポイントのライフを回復する!」

『悪夢の蜃気楼』を破壊し、十代のライフが3000へと回復。
そこにダイレクトアタックが決まり、1000残った。

「何だと!?」
「うう・・・っと、なんとか持ちこたえたぜ・・・」

無数の蟲が勢いよく体にぶち当たってきて精神的にも肉体的にもダメージを受けたが、十代は立っていた。

「もうダメかと思ったぁ・・・」
「遊城十代・・・なんて奴なんだぁ」

翔は一難去った事に安堵し、隼人は初めて見る十代のデュエルに衝撃を受けていた。

(くそ!ますますオレが不利になっちまったぜ・・・。コイツはとんでもなく強い!)

さすがの十代も容赦ないタイタンのデュエルに顔を引き締め出す。
このまま遊び半分じゃ殺られてしまう。

「フフフフフ。さぁ、小僧。ライフが減った事により、貴様の体はさらに消えるぅ」

タイタンは懐から再び千年パズルを取り出し、見せつけた。

「あぁ!アニキの右腕がぁ!!」
「え?右足・・・だろ?」
「え?」

消えていく十代の体の一部を見て、翔が消えた部分を叫ぶが、隼人は訝しげに翔とは違う部分を言う。
何故か発言が食い違う二人に対して十代は気にせずデュエルを続けた。

「オレのターン、ドロー!オレは魔法(マジック)カード『戦士の生還』を発動!フェザーマンを手札に戻し、バーストレディと手札融合!フレイム・ウィングマンを召喚!」

十代のフェイバリットが遂に召喚された。
目の前に禍々しく立つ巨大なデーモンと比べても見劣りしない逞しいヒーローの姿に十代は笑みを浮かべる。

「効果がダメなら直接バトルで勝負!いけェッ!フレイム・ウィングマン!フレイムシュート!!」
「ぅぅぅぅあ!」
「この瞬間!フレイム・ウィングマンの効果発動!戦闘によって破壊されたモンスターの、攻撃力分のダメージを・・・くらえッ!」
「んああああッッ!んおぉぉォォォォ・・・」

100+2000の大ダメージ!
LP4000から1900となったタイタンの体も十代と同じように消えていく。
その光景をメガネを押し上げながらジッと見ていた翔は隼人に尋ねた。

「消えたの、右手ですよね?」
「左、だろ?」
「さっきから・・・見えてるの、違くないっスか?」
「どういう事だぁ?」

二人の会話を余所にデュエルは進む。

「だが、この程度なら私のデーモンは不滅ぅ・・・。手札から、再びデスルーク・デーモンを捨て、三度甦れ。ジェノサイドキングデーモン!」
「ぅ・・・倒しても、倒しても・・・!ダーク・カタパルターを守備表示で召喚!・・・ターンを終了するぜ」

守備力1500のモンスターを場に出し、十代はターンの終了を宣言する。

「私のターンだ。このターンで貴様はぁ、新たな地獄を見る。フッ。私はジェノサイドキングデーモンを生贄に、いでよ!迅雷の魔王−スカル・デーモン−!」

悪魔の王を生贄にして更に上位の魔王をタイタンは召喚する。
雷光を迸らせ、現れた禍々しき迅雷の魔王。攻撃力は2500もある。
フレイム・ウィングマンの攻撃力を超えたモンスターが現れてしまった。

「その目障りなモンスターを、八つ裂きにしろ!怒髪天衝撃!」
「うぅあ!んぅ・・・」

フレイム・ウィングマンは破壊され、十代の残りLPは600となった。

「アニキ!」
「十代!」

攻撃によろけた十代に翔と隼人は呼び掛ける。

(今のは・・・効いたぜ・・・)

弱り切った十代の姿にタイタンはほくそ笑んだ。

「どうだ・・・?もうお前は全身の力が抜け、立つ事も出来ない・・・」

タイタンは千年パズルを掲げ、十代に語り掛ける。
千年パズルから放たれる光。タイタンの纏わり付くような低い声。
頭がグラグラする程の目眩が襲ってきて、十代は堪らず膝をついた。

(ヤバい・・・死ぬ・・・!)

「フ・・・」
「十代!しっかりしろぉ!」
「アニキぃ!!」

(クククククク・・・。闇に堕ちたか、遊城十代・・・。貴様は自らの意思で、肉体の機能を止め、屍と化すのだ!)

翔と隼人の声が遠くなる。もう何も聞こえない。
十代は目を閉じ、体の力を抜いた。
死の闇はすぐそこまで近付いていた。

『クリクリー!』

闇に身を委ねようとしたその時、デッキから現れた光の玉が十代の周りを飛ぶ。

(・・・?)

十代はそれを目で追った。
光の玉は十代とタイタンの周りを飛び、十代に何かを訴えかけている。
訝しげに眼を細めたその時、肩に冷たい誰かの手が置かれ、囁きが聞こえてきた。

『・・・十代、騙されるな・・・。お前たちの身体は・・・消えてなどいない・・・』

ハッと後ろを振り向くが誰もいない。
立ち上がった十代は自分の身体のだるさや息苦しさがマシになっている事に気が付いた。
見下ろした自分の体は消えたまま。タイタンもそうだ。
しかし、光の玉が十代やタイタンを照らした時、何も消えていなかった。
十代は確かめる為、隼人に聞いた。

「隼人!奴の左手は消えてるよな?」
「いや、逆だと思うけど」
「えぇ!?」
「なるほど。そういう事かぁ」

二人の反応で十代は何かが分かったようだ。
ニッと笑い、タイタンを見つめた。

「オレのターン!ドロー!」

そんな十代にタイタンは驚愕する。

(馬鹿な。コイツ、まだデュエルが続けられるのか?)

ここまで体が消えてどうして笑って立っていられるのか。
さっきまで確かに闇に堕ちた手応えがあったというのに!

「ダーク・カタパルターの特殊能力を発動する!このカードが守備表示でいたターンの数だけ、墓地からカードを除外する事で、同じ数のフィールド上の(トラップ)魔法(マジック)カードを破壊する事が出来る!オレはフェザーマンを墓地から除外し、フィールド魔法『万魔殿』(パンディモニウム)を破壊!フォーリン・シュート!!」

ダーク・カタパルターから放たれた光によって、悪しき魔空間が砕け散っていく。
自分が整えた最高の空間を破壊されたタイタンは焦り、ダメージを与えた訳でもないのに千年パズルを見せ付けようとする。

「くそぅ!これを見ろぉっ!」
「お前には、除外したカードを、確かめてもらうぜ!」

千年パズルが光出す隙を与えず、十代はフェザーマンのカードを手裏剣のごとく投げ、パズルの目の位置に突き刺した。

「しまったっ!」

十代とタイタンの体が復活。そして息苦しい感覚も消えてなくなった。

「アニキの体が元に戻った!」
「思った通りだ。コイツの闇のゲームはインチキだ!」
「「え?」」
「たぶんコイツはマジシャンか何かで、オレたちはコイツの催眠術にひっかかっていたのさ。体が消えて見えたのも、ホントじゃない。だからオレたちには、ちぐはぐに見えたのさ。たぶんそのコートやルーレットには仕掛けがしてあるんだろうぜ!」

十代に指を突き付けられ、タイタンは狼狽して一歩後ずさる。

「何をほざくぅ。私は本当に闇のゲームを・・・」
「なら当然知ってるよな?アンタが持つ千年アイテム。それがいくつあるのか!」
「千年アイテムの数だとぉ?」
「答えてみろよ」
「それは・・・・・・な、7」
「お」
「フフフフ・・・なぁなだぁ」
「当たりだ・・・」

三人の反応にタイタンは水を得た魚のように自信を取り戻した。

「フフフフ、どうだ。これで分かったか。私は本物の闇のゲームの使い手。この世にある七つの千年パズルを持つ、一人なのだぁ!」
「「あ・・・」」

調子に乗ったタイタンは墓穴を掘った。
十代はニヤリと笑う。

「フッ。残念だったな」
「んぅ?」
「確かに千年アイテムは七つあるけど、千年パズルが七つあるワケじゃない!」
「んくぅ・・・」

十代はここに来るまでに見た壁画で千年アイテムの種類を確認していた。
その十代に嘘や誤魔化しは通用しない。

「墓穴を掘ったな!お前は自分がインチキ野郎だって自白したぜ!」
「ぬぅ・・・私の仕掛けが効かない以上、貴様とデュエルを続ける事など、無意味な事!」

分の悪さに顔を歪ませ、タイタンは手に持っていた千年パズルを床に投げ付けた。
砕け散ったパズルから煙幕が噴き出す。

「やっぱり偽モンの千年パズル!待てェ!」

煙幕に紛れて逃げようとするタイタンを捕まえる為、十代は駆け出した。
その一足、一足ごとに壁に埋められた蛇のモニュメントの口が次々に光り出す。
そして十代が部屋の中央に足を踏み入れた瞬間、足元に刻まれていた魔法陣が作動した。

「な、何だ?」
「んなっ!?」
「アニキぃ!!」

煙と共に十代とタイタンは部屋の中心に出来た黒い球体へと吸い込まれてゆく・・・。