場所を移動して、覇王と翔はレッド寮の裏手の崖下でデュエルする事にした。
隼人は二人のデュエルを邪魔しない為、崖の上で二人を心配そうに見ている。
自分も当事者の筈なのに蚊帳の外に置かれて、隼人はどうにもしてやれない不甲斐なさを噛み締めていた。

「覇王、翔・・・。俺、何にもしてやれないけど・・・」
「あまり心配し過ぎると身体に良くないわよ」
「明日香さん!」

隼人は後ろを振り返って見ると明日香がいた。
歩み寄った明日香は隼人の横に立つと崖下を見下ろす。

「制裁タッグデュエル決定で落ち込んでるかと思ったら、覇王は変わらないわね。このデュエルで覇王は翔君をどうするつもりかしら。いつものように容赦ないデュエルじゃ、翔君潰れてしまうわよ」

翔は実力を見せられずに瞬殺。そして更に自信をなくして自ら退学の道を選ぶ気がして、明日香は心配になった。 隼人と明日香の心配の視線を受けた覇王は気にする事なくデッキをシャッフルする。

「遠慮はいらない。お前の実力、全てオレに見せてみろ」
「なんであんなに自信満々なんだろ・・・。退学ほぼ決定だっていうのに」
「無駄口を叩くな」
「ご、ごめんなさい!」

覇王の叱責に翔は首を竦めた。
慌ててデッキをシャッフルし、デュエルの準備をする。
メガネを掛けた覇王はデッキをデュエルディスクにセットし構える。
翔も弱々しくデュエルディスクを構えた。

「デュエル!」
「デュエル・・・とほほ」

お互いのLPは4000。
通常通りの特別ルールなしのデュエルだ。

「オレのターン。ドロー」

覇王の先行。ドローしたカードは攻撃力1000のE・HEROフェザーマン。
手札を見た覇王はカードの影から翔の様子を見る。
不安そうにビクビクしており、ここでもし攻撃力の高いモンスターを出せば委縮してしまう事は目に見えていた。

「E・HEROフェザーマンを攻撃表示で召喚。さらに場にカードを一枚伏せてターンエンドだ」
「ボクのターン・・・ドロー・・・」

翔の引いたカードは攻撃力1200のパトロイド。
自分の手札を確認せず、ただフェザーマンより上回った攻撃力だけ見て翔は笑顔を浮かべる。

(やった!パトロイドの攻撃力なら、覇王のフェザーマンに勝てるぞ!何事も始めが大事・・・!)

『ダァー!』

パトロイドのアッパー攻撃が強く入りフェザーマンが崖に激突!
覇王は一撃を食らって座り込み、ボクを憧れの目で見るんだ!

『すごいぞ、丸藤。とてもお前には敵わない。これからはお前がオレと十代のアニキだ』

妄想を膨らませた翔はエヘエヘと締りのない笑みを浮かべる。

「丸藤!集中しろ!」
「あ、いけない!パトロイドを召喚!攻撃表示!」

子供向けにパトカーをコミカルなキャラクターにしたモンスター『パトロイド』。
翔のデッキは乗り物が元となったビークロイドで構成されたデッキだ。

「よし!バトルだ!行け、パトロイド!シグナルアターック! 」
「罠カード発動。『攻撃の無力化』!」
「あー!パトロイドのエネルギーが吸い込まれていくぅ!」
「あぁ、いきなりやられちゃったんだなぁ」

翔の攻撃がなかった事にされ、隼人は気まずげに呟いた。
その隼人の足元にはいつの間にかやってきたファラオが体を擦り付けている。
気付いた隼人は懐くファラオを抱き上げた。

「やっぱり心配していた通りね。翔君では、覇王のタッグパートナーは重荷なのかも」

明日香は指で地面にのの字を書きだすという典型的ないじけたポーズをする翔を見下ろして、そう評価した。

「せっかく一発カッコいいトコロ見せられると思ったのに・・・」
「丸藤。もしやモンスターの攻撃力しか見ていないのではないか」
「そんな事ないよ!!」
「パトロイドは相手のフィールドを確認する特殊能力がある。その効果があれば、オレが『攻撃の無力化』を伏せている事が分かった筈だ」
「やめてよ!!覇王だからってお説教はなしだよ!!」
「・・・それもそうだな」

金切り声を上げて怒り出す翔に、覇王は反論せず静かな声でそう言った。
その声で自分らしくない態度を取った事に翔は気付く。

「あ・・・、ごめん。覇王、ボク変だよな。せっかく覇王がアドバイスしてくれているのに」
「いや、今のお前には悪い対応だった。助言はなしにしよう」

覇王はカードをドローし、手札を見て考えた。
情緒不安定な翔とこのままデュエルを続けても意味がないかも知れない。
翔の攻撃を受け流しつつ実力を見る事をやめ、戦法を変える事にした。

「E・HEROスパークマンを攻撃表示で召喚。いくぞ、丸藤。スパークマンでパトロイドに攻撃。スパークフラッシュ!」
「あぁ!」

スパークマンの両手から生み出された光が槍の形となった。
その槍を右手に構え、雄叫びを上たスパークマンは勢いよく投擲する。
吸い込まれるように槍がパトロイドの体の中心を見事に撃ち抜く。
パトロイドは悲鳴を上げて爆発した。
1600−1200=400のダメージが入った事により、翔のLPが3600となる。

「丸藤にダイレクトアタックだ。フェザーマン!」
「ぅわあぁぁぁ!!うぐ・・・くっ・・・!」

崖上まで飛び上がったフェザーマンは翼をはためかせ、翔に向かって急降下する。
その勢いで殴り付けられた翔は体を吹っ飛ばされてしまった。
LPは残り2600。翔は地面に伏せたまま情けない声を上げる。

「とほほほ。いきなし本気を出すなんてヒドイよー覇王・・・」

ボクは覇王に見せれる程の実力なんてないんだと意気消沈した様子を見せる翔。
覇王は黙って翔を見つめる。
そんな二人を見て明日香は諦めたように顔を曇らせた。

「早くも戦意喪失なの?がんばって翔君・・・」

しかし、隼人は違った。 座り込んだまま立ち上がろうとしない翔に隼人は唸り声を上げ、一歩前に踏み出した。

「きばれぇ!!」
「え?」
「そんなモンで落ち込んでたら一年留年の俺なんかより格好悪いぞぉ!!」
「隼人君・・・」
「きばれぇ!きばれぇ翔!!」
「いつも大声なんて上げないあの人が、あんなに一生懸命ボクの為に応援してくれているんだ・・・」

翔は投げ出していた手に力を入れ、ギュッと拳を握る。

(その期待に、応えなきゃ!)

立ち上がってデュエルディスクを構えると、翔は声を張り上げた。

「ボクのターン!」